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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■死者にムチ打て/『シティボーイズミックスPRESENTS メンタル三兄弟の恋』パート1
 葛飾北星原作・浦沢直樹作画のマンガ『MASTERキートン』が絶版状態にあるとか。
 ニュースソースは『週間文春』なのだが、その理由というのを浦沢直樹氏、編集者の長崎尚志氏(現在『PLUTO』をプロデュース中)などに取材してまとめている。その内容をかいつまんで書くと、以下のような次第になるそうな。
 まず、原作者の「葛飾北星」氏であるが、本名は菅伸吉、「ラデック・鯨井」や「きむらはじめ」のペンネームでも活躍していた人気原作者である(昨年12月に死去)。『キートン』に原作者として付いたのは、当時作画の浦沢直樹氏が『YAWARA!』を連載中で多忙であったため、編集部の要請があったためだという。
 ところが浦沢氏は葛飾氏の提供する原作が気に入らず、長崎氏と協力して話を作っていた。従って、実質的に葛飾氏は名のみの原作者に過ぎなかった。
 そういう事情なので、『キートン』の増刷に関して浦沢氏は「葛飾氏の名前を小さくしてほしい」と小学館に申し入れ、いったんはそれが了承されたのだが、葛飾氏の友人である雁屋哲氏がその話を聞いて、「葛飾氏の名前を小さくすることはまかりならん」と横槍を入れてきた。結果、増刷の話は宙ぶらりん、事実上の絶版状態に陥ってしまったというのだ。
 この話がどこまで真実なのかはちょっと分からない。話をそのまま鵜呑みにするなら、雁屋哲、何考えてるんだ、ということになるのだが、「葛飾北星は『MASTERキートン』の原作を書いていなかった」というのもどこまで本当なのか、そこから既にウワサの域を出るものではないから、もしも「葛飾原作」がちゃんと存在しているのなら、雁屋氏の怒りももっともだ、ということになるのである。
 細野不二彦の『ギャラリーフェイク』について細野さん自身が『ベスト版』でこう語っている。美術マンガという新境地を開拓するがゆえに、第1話こそ、編集部から原作を渡されたのだが、細野さんはその原作が気に入らずに放棄して、殆ど自分で物語を書き上げてしまったというのである。クレジットが細野さんのみになったのはそのためだろう。
 「葛飾原作」が存在していないのなら、あるいは存在していても浦沢さんがそれを使わなかったのなら、どうして細野さんと同じく自分だけの名前で発表しなかったのか。そこが腑に落ちないというか、なんだか胡散臭くすら感じられるのである。「原案協力・葛飾北星」程度の表記にしてもよかったのではなかろうか。浦沢さん自身がそのあたりの事情をきちんと語ってこなかったことがそもそものトラブルの火種になってるんじゃないかという気がしてならない。
 マンガ制作に関して「原作をどの程度使っているか」はケース・バイ・ケースで、クレジットだけではその実態が分からないことも多い。『あしたのジョー』では冒頭のドヤ街のシーンが梶原一騎の原作には全くなく、作画のちばてつやのオリジナルであることは、今でこそ有名な事実として知られているが、連載当時世間一般には全く知られていなかった。
 こういうのはかなり特殊なケースであるが、予め「小説」の原作があった場合には、マンガ家がどのようなアレンジを施したのかが比較できるが(例えば、鳥山明の『ドラゴンボール』などは兎人参化のエピソードあたりまでの展開は、意外にも呉承恩の『西遊記』に忠実なのである)、マンガのためのオリジナル原作となると、それが読者の目に触れる機会は殆どないに等しく、これだけ「マンガ文化」が世界的に普及している現在でも、その研究が立ち遅れている原因の一つになっている。

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05月24日(火)
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