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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■彼は誰か。/『のどかnobody(ノーバディー)』2巻(田山りく・及川雅史)
「想定外の事件」というのはまさしくその通りだろう。
いつぞやの三馬鹿のような、無自覚な連中とは違う。カメラマン・記者ではないが、命を賭した仕事に従事していることは間違いない。ただし、その「思想的背景」は知る由もない。
イラクの武装組織「アンサール・アルスンナ軍」(アルカイダと深い関係があるとされるイスラム教スンニ派の武装組織で、外国人の拘束、殺害事件を多数起こしているグループ)が、昨九日、イラク西部ヒート近くで米軍基地から出てきた車両を襲撃し、イギリスの警備会社「ハート・セキュリティー」から派遣されて米軍基地の警備支援に当たっていた日本人、斎藤昭彦氏を拘束した。斎藤氏は重症だという。
率直な疑問を口にするなら、「米軍基地にどうして他国の『警備』が必要なのか?」ということなのだが、識者によれば、近年、アメリカなどでは兵士を抱えるコストを削減するために、有事のみに利用する傭兵・ボディーガードを民間会社に依存する割合が大きくなっているということである。要するに「準兵士」として働くわけで……って、つまり「MASTERキートン」(ロイズで働く前のね)か! と、実際にそういう人が活躍している現実は知識として知ってはいたものの、日常のニュースの中にこうして飛び込んできた途端に何か戦慄のようなものを覚えてしまうのは、やはり安楽な中に暮らしている日本人の心の間隙というものであろう。
斎藤氏はかつて1979年から81年にかけて陸上自衛隊第1空挺団に所属し、その後、フランスの傭兵部隊に20年間所属し、200人からの部隊も率いていたという。ハート社は元特殊部隊所属の除隊者で構成されており、斎藤さんが雇われたのもそういった経歴が買われたためらしいが、だとすれば斎藤さんにとって、他国の警備会社の傭兵となることも「国防」の延長線上にあったことなのだろうか。その線がよく見えない。
しかし、武装組織は明らかに斎藤さんを「米軍の一味」と見ている。斎藤さんを除いて、ほかの傭兵たちはみな殺したということだが、なぜ斎藤さんだけをとりあえずではあるが助けたのか。テレビのニュースでは、「日本人は金ヅルだから」というコメントを寄せる識者もいたが、果たしてそうか。「金銭要求のための人質」あるいは「自衛隊撤退を要求するための人質」ならばまだ生存の可能性はあるだろうが、「そうでない」可能性のほうが高いのではないか。自らの「宣伝」工作のためという意見もあったが、こちらの可能性が高いと私も思う。犯行声明文に具体的な要求がない点もその推測を裏付けているように思う。
だとすれば、極めて厳しい現実を我々は覚悟しなければならないのではないか。
日本政府はもちろん情報の収集、および救出に尽力するだろうが、明らかに「米軍協力」が明確である今回のケースは、これまでの中で最も危険な現実を日本人に付きつける結果になりはしないか。これでまたね、「自衛隊撤退」を訴えるトンチンカンな連中が現れそうな気がするが、これはもうそういうレベルの問題ではないのである。
私のような凡人には、イラクに行く動機自体、心の中に全く見出せない。今や、どんな目的でイラクに行こうと、テロリストたちに利用されることにしかならないことは状況が示している。覚悟のない傭兵がいるわけもないが、だからと言って、余りにも我々の日常とかけ離れた立場に身を置いている斎藤さんの心情が分からぬ以上、憶測だけでは賛同も反対も示すことはできない。
なんかね、ネット見てるとさ、斎藤さんと三馬鹿とを一緒にしてる連中もバカだけど、斎藤さん立派! と持ち上げている連中も、「傭兵」の何を知ってそういうことを言ってるのか、分かんなくてね、やっぱりバカなんじゃないかって気がしてくるのよ。斎藤さんは「自衛隊」としてイラクに入ったわけじゃないんだから、我々との繋がりをどう実感すればいいのか、今の段階では「よく分からない」というしかないのが大半の日本人の現状じゃないかと思うんだけど、何だかもう「知ったかぶり」なやつが多くてヤダねえ。
私はもう、いったい、イラクとは何なのだろう、と根本的な疑問を自分に対して問いかけるだけである。
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05月10日(火)
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