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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■暢気な初日と思ったら/『失踪日記』(吾妻ひでお)
転勤初日。
これまでの支社は通勤に1時間半かかっていたのが、今度の職場は徒歩20分にJRで23分、駅から歩いて5分、概ね50分弱で着く。しげに車で駅まで送ってもらえれば15分短縮されて30分強だ。ただ、それは行きの話で、帰りは電車の本数が極端に減って30分に一本しかない。でもそれでも七時前には帰りつけそうで、ずいぶん気が楽になる。
久しぶりにJRに乗るが、思ったほど通勤ラッシュは激しくない。駅から職場まで、道がやや上り坂になってはいるがさほどだらだら坂というわけでもないので、明日に疲れを残さずにすみそうである。
仕事はまだ初日なもので、会議が少々あった程度で、たいしたことなし。退社も定時。まずはゆるりと参ろうぞ、てな感じである。
夜、震度3ほどの余震。隣の春日市では震度4を記録したとか。
揺れ具合は前回と同様で、ゆらっと来て、ドン、と来る感じ。背後の棚の上の何かが落ちる音がしたが、何が落ちたかは確認できず。寝ているしげの部屋のほうでもまた雪崩の起きる音。揺れは10何秒ほどで収まるが、一瞬の恐怖は本震のときに近い。
しげに「大丈夫か?」と声をかけると「うん、大丈夫」と答えが返る。起きてるなら大丈夫か、と思ったのだが、あとで分かったことだがこれはしげの寝言であった。どうやら時計だか本だかがしっかりしげのおでこにぶつかっていて、こぶができていたのだが、それでも目を覚まさなかったのである。こいつ、絶対寝ながら死ぬ運命にあるな。
『報道ステーション』を見ていた最中で、古館伊知郎が深刻な顔で「詳しい情報があり次第お伝えします」と言ってたのに、後は何の報告もなし。なこの人が真面目くさってモノを言えば言うほど嘘っぽく聞こえてしまうのはどうしたもんかな。
吾妻ひでお『失踪日記』(イースト・プレス)。
発売から長いことかかったけれど、ようやく入手。
友人から「まだ手に入れてないのか」とせっつかれたり、日記の読者さんからネット通販を勧められたりもして、なんだかあちらこちらにえらいこと心配をかけてしまいましたが、待ち望んだだけのことはありました。いやもうおもしろいったらない。
この15年ほど、何度か復活しつつも、鬱で失踪、ホームレス生活、ガテンな仕事、アル中で強制入院と、一時期は完全に「消えたマンガ家」となっていた吾妻さんの私小説ならぬ「私マンガ」であるが、本職の私小説作家の作品よりもはるかに面白い。解説対談でとり・みきさんが仰ってる通り、実情は相当悲惨であったろうに、それをクールに見つめている姿勢が、作品をエンタテインメントとして成立させているのである。島崎藤村も田山花袋も嘉村磯多も徳田秋声もみんな自分に酔ってばかりいないで吾妻さんを見習え。みんな死んでるけど。
何より嬉しいのは、「作者の出ないマンガなんてマンガと言えるか!」と言って、『やけくそ天使』や『スクラップ学園』『不条理日記』などなど、ほとんどの自作に自分を登場させてきたころとイメージがほとんど変化しないまま、本作でもマンガキャラクターとしての「吾妻ひでお」が主役を張っていることだ。史上最強のインランSFキャラクター阿素湖素子とタメを張り、隙あらば憧れのアグネス・チャンや林寛子に襲いかかり、妄想の中で妄想を紡ぎ出してきた「吾妻ひでお」なのである。だから「気が狂う気が狂う」とアル中による幻覚に苛まれていても、まるで悲惨に感じられないどころか「うん、ムカシから吾妻さんはそうだったものな」と微笑ましくすら見えるのだ。だって、「大好きな女子高生までが恐ろしい」なんて台詞、昔からの吾妻さんを知ってたら、同情しつつも爆笑するしかない。一読し終わって、帯に「自殺未遂」と書いてあるのに気づいて、「あれ? そんな描写があったかいな?」と思って読み返してみたら、「酔っ払っているうちに山の斜面を利用して首吊りしようとしたが眠ってしまった」というシーンがあった。あまりに暢気な描かれ方であったので、これを自殺未遂と認識できなかったのである。
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04月01日(金)
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