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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■PTSD?/映画『鉄人28号』
 夕べのうちに細川嬢の無事も確認。次の芝居で一番頼りにしていると言っても過言ではないスタッフなので、胸をなでおろしている。
これでどうやら、身内や知り合いでケガした人は殆どいないようで一安心……。
と考えていて、ふと、親戚の安否を一切気にかけてなかったことに今になって気づいた。でも、私のことを金ヅルだとしか思ってない連中のことなんぞ、眼中にあるはずがないのである。少なくとも、たとえ血は繋がっていようとも、ハイエナかハゲタカみたいな親戚よりははるかに心配をしているのだから、加藤君、メールが遅れた程度のことでひがんだりしないように。


 目覚めて、心臓の音に驚く。「揺れ」に対してすっかり敏感になってしまっているので、ちょっとした眩暈や、静かに寝ているときの自分の心臓の音ですら、地震の予兆かと錯覚してしまうのである。ああ、これがPTSDというやつか、と思わず頷いてしまったが、てことはこの「不安感」、そんなに簡単に治らないんじゃないかと考えてまた不安になる。
 もともと「目覚めたときの心臓の鼓動」は、私にとっては何よりの「生の証」であった。
小学一年生の時に転落事故に遭い、頭蓋骨の複雑骨折を起こし、奇跡的に生還はしたものの、それ以降、私は今でもたまに目の前の風景を認識できなくなる後遺症に悩まされている。医者からは十年生きられる保証はないと言われ、十代のころは頭痛がするたびに自分は死ぬのではないかという恐怖に苛まれていた。だから、私にとって「眠り」とは「次の日に目覚めることはないのではないか、このまま眠るように死んでしまうのではないか」という恐怖と表裏一体の関係にあった。
それから三十年以上が経っているのだが、この恐怖感、決して薄らいでいるわけではない。眠るのは今でも怖いのだが、かといって眠らないでいるわけにはいかない。だから私は、寝るときはある意味「もう死んだって構わないや」と開き直って、“意図的に意識を消す”ようにしているのである。しげには「三秒で眠る男」と言われているが、私の寝付きがやたらいいのはそのせいなのだ。だいたい、自棄になってるんじゃなきゃ、どうして寝相が極端に悪い人間爆弾のしげの隣でのんびり寝てられるものか。
だからこれまでは、朝起きて、自分の心臓が動いていることを確認すると、「ああ、オレ、まだ生きてるんだなあ、生きててもいいんだろうなあ」と思ってホッとしていたのだが、地震の後はそれすらも安心の要素にならなくなってしまった。
目覚めたばかりの意識がまだ朦朧としている状態では、めまいや鼓動と、地震の区別がつかない。こういう不安感から開放される日が来るのだろうか。


 地震後初出勤。
 昨日のうちに職場は一応無事と、電話での確認はしていたのだが、実際にどんな状況だったかは足を踏み入れてみなければ分からない。
 休日出勤の同僚もかなりいたようで、いろいろ対応に追われていたようである。お手伝いができなくて申し訳ないが、やっぱり親との連絡の方が大事になるのが人情というものなので、カンベンしてもらいたい。
 水道管が破裂して、便所がいくつか使えなくなっていることを除けば中はそんなに乱れた様子はない……と思っていたら、私の机の上の書類ファイルなどが、連休前はブックエンドに立てかけられていたのが、今はぐちゃまらと平積みになっている。どうやら床に散乱していたのを、どなたかが重ねて置いて下さったものらしい。
ありがたい話ではあるが、すぐに必要な書類がどこに行ったか見つけられずにちょっと慌てた。

 転勤の内示が出ているので、残務整理でおおわらわ。
 その最中にまた「グラッ」と来る。しかも、今度は一度「ゆらっ」と来て、一呼吸置いてやや大きいのが「ぐらっ」と来たものだから、もしかしたらまた……とつい身構えてしまった。幸い揺れはそれだけで収まったが、余震にしてはかなり大きい。もしかしたらまたすぐに次のが来るかも、と思って腰が立たない。かと言って、物が落ちるほどではなかったにもかかわらず、すっかり臆病になってしまっているのである。

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03月22日(火)
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