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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■To be or not....../竹本泉『トランジスタにヴィーナス』7巻
 朝方、起きぬけのしげがなんだかベソかいたような顔をしている。
 なんだまた鬱か、と思ったらそうではなくて、「オレ、茶碗割ったかもしんない」と言って、真っ二つに割れた茶碗を持ってくきた。
 「なんか、足がゴリゴリするなあ、と思ったら、割れてた」
 「……そりゃ確実に割ってんだよ」
 しげの寝相はかなり悪いのだが、特にその足の破壊力ときらまさに悪魔的と形容するほかはなく、私も何度となく被害に遭っているのである。つか、足元の茶碗くらい片付けてから寝ろよ。
 うちにある茶碗だの皿だの、食器類がわじわと減ってきていて、気が付いたらカレー皿やら小振りのどんぶりやらは、今や一人分しかない。私一人のときにはここまで茶碗割ったことはないのになあ。またそのうち百円ショップで皿とか買わにゃならないなあ。うちじゃあ食器の新陳代謝はしょっちゅうなのに、どうしてしげの脳みそは新陳代謝してくれないのだろうか(注・しげのに限らず人間の脳みそは新陳代謝しません)。


 しげはひと足先に芝居の練習。私はカメの日光浴と、水換え。
 ひところ元気のなかった竜宮亀太郎も、エサを生き餌に変えてから前にも増して食欲旺盛になって、自分よりも2倍弱はデカくなった玄武をモノともせずにその上に乗っかり、エサを食らっている。でも食い方がドヘタくそで、噛んだエサがすぐに口の中からポロポロこぼれるのである。だもんで私は日に一回くらい、しかも少量しかエサをやらないようにしているのだが、しげは「亀キライ」とか言ってるくせに、スキを見てはすぐに水面いっぱいに広がるくらいに餌をばらまくのである。
 「だってこいつら、ちょっと顔近づけただけで『エサ?エサ?』って思ってバタ狂うんだもん」としげは言うのだが、だからって大量にやったら、結局は食い残してしまうのである。しばらく経つとそれが下に沈殿して、糞と混じって腐敗する。これですぐ水が濁っちゃうんだよなあ。「部屋の中がカメ臭くなる」って文句言ってるくせに、そうしてる一番の原因はしげにあるのである。
 本当は、日光浴は毎日させてやりたいし、水換えも三日に一度はしたいんだけど、しげはそういう協力はする気ないのな。させても水槽割るからさせないけど。


 午後から練習に参加。今日の出席者は、桜雅嬢、加藤君、鴉丸嬢、其ノ他君、穂稀嬢。
 昨日のことがあったので、果してしげをこのまま使っていいものかどうか、演技の様子を見てみたが、殆ど上達していない。歩き方から「普通に歩く」ことができないのだから、これはかなり重傷である。
 普通、人は足を前に出すとき、カカトから真っ直ぐ降ろしていくものだが、しげはガニまたで、足のウラをほぼ平面にぺったんぺったんと降ろしていくのである。幼児かペンギンの歩き方を想像していただければよかろうか、みっともないと言うか滑稽だと言うか、ともかく、こんな珍妙な歩き方では、演じる役柄がどうしても限定されてしまう。シリー・ウォークじゃないんだから。
 この十年ずっと、「歩き方がヘンだ、演技にならないから矯正しろ」と言い続けてたのだが、しげは全く改善しようとしなかった。「やってみたけどうまくいかん」ということならともかくも、「普通に歩くとキツい」とか言ってすぐやめてしまうのだから、どんなにエラそうなことを言っても、しげには本気で芝居をする気がないのだ、と断定せざるを得ないのである。キャスト変更したいものの、ともかく人材がいない。はっきり言っちゃえば、ある人くらいしか代役ができる人はいないのである。しかし、「しげの代役なんだけど」と言えば、恐らくは固持されるのは想像がつくのである。となると客演を頼むしかないが、いきなりの主役を依頼できるものでもない。にっちもさっちもいかないのである。
 鴉丸嬢からは夕べ電話があって、事情を説明したのだが、「しげさんくらい、芝居のこと考えてる人はいないよ」という返事だった。そんなことは分かっているのである。考えてることを「表現」できないからアタマを抱えているのだ。

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09月26日(日)
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