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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■波瀾万丈……だったかもしれない一日/DVD『北九州モノレール』
 土曜日に休日出勤だったので、今日は珍しくも平日休業。
 一日寝て暮らすというのも選択肢の一つであるが、せっかく平日にうろつけるのであるから、普段行きつけないところに行きたい、ということで、北九州スペースワールドに行く計画を立てていたのだが、天気予報を見ると、あいにく雨のち曇りである。窓の外を見ると、なるほど、結構まとまった雨が降っている。それでも「のち曇り」なら、出掛けても損はあるまい、と判断して、お出掛け決行することにする。

 最初は朝から遊び倒しの予定だったのだが、しげが「ちょうどいいから、アタマのおかしい病院にアンタ行かない?」と言う。しげが神経科に通って一年になるので、病院の先生が一度おいで下さい、と言っていたというアレである。……いつも思うのだが、しげが神経科のことを「アタマのおかしい病院」と呼ぶのはどんなもんだろ。病院のアタマがおかしいわけじゃないだろうに。
 私は今度の土曜日に行こうかと思っていたのだが、しげは「きっと混むから、今日にしようよ」と言うのである。なるほど、それは確かにその通りだ。
 けれど、そうなると午前中はほぼ病院で時間が潰れてしまうわけで、スペースワールドで過ごす時間がかなり取られてしまう。それでもしげは構わんのだろうかと思っていたら、逆にしげから「遊ぶ時間が減るけどいい?」と聞かれてしまった。なんかこの「自分が思ってること」を相手の気持ちにむりやりすりかえて許諾を求めるというのもしげの悪い癖だが、こういうところも何度注意しても改まらないのである。全く、こないだからずっと「デートだデートだ」と心ここにあらずって感じだったのはどこのどいつだよ。

 そんなわけで、雨の中、朝の9時から病院へ。
 待合を覗くと、それでも2、3人は患者さんが待っている。平日だからと言って、お客さんが少ないというわけでもないらしい。
 院長先生と、しげと一緒に面談。先生からは予想していた通り、「この一年で、何か変化はありましたか?」と聞かれる。
 「ヒステリーを起こすことは少なくなりましたが、相変わらず家事はしようとしません。一人で活動することができなくて、仕事も休みがちです」と答える。しげにも同じことを聞くが返事は同様。とにかく自分で判断して行動することがどうしてここまでできないのか、なぜここまで物忘れが激しいのか、それがわからない、と訴える。
 「父も家内のことは心配してるんですが、『車の運転もできるし、パソコンも扱えるのに、家事ができないとはどうしてだ』って言うんですよ」
 「それはそうですよ。車の運転やパソコンは機械的ですからかえって簡単なんです。自分で判断しなきゃならない家事の方がずっと難しくて、今の若い人はその能力自体、低下してるんですね」
 しげの生活能力の低さはとてもそれだけだとは思えないが、肝心なのはこれからどうしていくかということである。
 「知り合い以外からは電話も取れないとか、不安や恐怖心がかなり強いようなんですが」
 「奥さんは奥さんなりに合理的に努力してますよ。何かするときに事前にシミュレーションしたりするのはその表れです。子供のころに経験した外部からの恐怖心が蘇ってくるところに奥さんの場合は、問題の原因があるように思いますね。そのせいで『気持ちはある』けれど、それが実際の行動に移せないんです」
 院長先生はそう言って、作業療法士の方を呼ばれた。
 「週に一度、火曜日に『SST』、“Social Skills Training”と言って、何か問題に遭遇したときにどう対処するかを実際にトレーニングしてみる療法を行ってるんですが、これに参加してみませんか?」
 要するに演劇における「エチュード」である。そういう療法があることは私も聞き知っていたので否やはない。傍らのしげの様子を伺ってみると、目がランランと輝いている。演劇が絡むと途端に元気になるのだから、実に分かりやすいのだが、全くどうしてこの元気が生活一般に発揮されないものなのか。

 療法士のSさんに案内されて、教室を見学。SST自体は火曜日しかやっていないのだが、毎日何かしらカリキュラムが組まれていて、患者さんが集まって習字とかもの作りとかスポーツとか、いろいろ行っているそうな。

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09月27日(月)
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