ID:10788
無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
[491678hit]

■だから鬱になってるヨユーなんてないんだって/『鋼の錬金術師 シナリオブック vol.1』
 いよいよ仕事が立て込んできて、なんかまだ病み上がり感覚の身にはいささかキツイ。
 取りまとめなきゃならない仕事が二つ三つ重なってるので、あちこちの関係者に進行をせっつかないといけないのだが、思った通り、だいたいみんな仕事してくれてない。そのことは見越して、当然スケジュールに余裕は持たしてるのだが、各所に頼んだ仕事、ちゃんとシメキリ通りに仕上げてくれた人が一人しかいないというのは、ちょっとみんな仕事サボリすぎじゃねえのか。これじゃあトンガリさんから「あんたたちだって仕事してないでしょ!」と逆ギレされるのもムリはないのである。もちろん、トンガリさんも、頼んだ仕事、見事にぶっちこいてくれてましたとも。


 でも今日はトンガリさんのことで腹を立てる段ではなかった。
 またまたまたしげが鬱に入り、ひと騒動やらかしてくれてたのである。
 朝方は「迎えに行くから電話よこしてね」と言っていたしげ、帰りになって連絡を入れても、どうやら携帯の電源自体切っているらしく、「お留守番サービス」にしか繋がらない。
 仕方なく帰宅してみると、今日は仕事のはずなのに準備もせずに寝こいている。
 「仕事は? 昨日もおとといも休んでるから、今日は行くんじゃなかったのか?」
 「行かん」
 「どうして」
 「……」
 具合が悪い時にはしげはちゃんとその旨はっきり言う。黙っているということは、ただのサボリだということだ。
 「なんで理由が言えないんだよ」
 しばらく押し問答をしていたら、ようやくか細い声で「理由はない」と答えた。
 「……もう、仕事したくないのか? 店、やめるのか?」
 「……」
 「仕事せんと、芝居もできんやろうが。どうするとや?」
 「……」
 「仕事ちゃんと行ってこい。今からなら間に合うやろ」
 「もう『行かん』って言ったもん」
 「だから、それを『行きます』ってもう一度連絡しろってんだよ。まだ間に合おうが」
 「……」
 「芝居もする気ないとや?」
 「……」
 「自分のしたいことも言えんのか。だったら公演なんかできんめえもん。仕事行かんのなら、みんなに公演は中止するってメール送るぞ。それでもいいとや?」
 「……」
 これはもうどうしようもない、と、しげの目の前で次のようなメールを劇団の主だったメンバーに送った。

> 女房がやる気なくしたんで、今度の公演は中止します。突然ですがすみません。連絡も取らないで下さい。

 実際に本気で公演を中止するつもりだったのかどうか、と疑問に思われる方もいらっしゃるだろうが、9割9分本気だった。私の目から見ればしげは全くと言っていいほど芝居に本気で取り組んではいない。今まで何度もしげに芝居のキャストだのスタッフだのに引きずりこまれながら、私が途中で抜けることが多かったのは、「お前がヒステリーを起こすようなら芝居には協力しない」という約束を一度もしげが守れなかったからである。「起きるものは仕方がない」などという言い草はモノ作りには通らない。医者が手術の失敗を「調子が悪かった」で済まされるものではないのと同じだ。
 何でもそうだが、「本気でやりたい」と思うのなら、誰でもそのための下準備はする。それは単に先立つものが必要、とかそういう物理的なことだけでなく、自分の心構えの問題でもある。生活を切り崩してまで芝居に打ちこむ覚悟があるなら、それはそれで構わない。しかし結局は私に甘えることでしか芝居がやれない、というのなら、そりゃ根本的に生き方自体、間違えている。自分で自分の生活立てた上で芝居やるんじゃなきゃ、何の意味があるか。なんだかんだでしげは既に私に7万円、返せるアテもない借金を作っているのだ。練習に出ても演技プランをマジメに考えてる様子もない。これでは私もこれ以上は協力のしようがないのである。被害が大きくなる前にやめさせるのも仕方がないと、考えていた矢先だった。

[5]続きを読む

09月25日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る