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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■会話のナカミがウスくったっていいじゃないの……ねえ。
自分がオタクであるかそうじゃないのか、ということをいちいち気にするこたあないと思うのだけれども(そんなもんでアイデンティティーが左右されるなんて考えていること自体、情けないのだが)、ふと日常のハザマで、そういう自分の業と言うか性(さが)と言うか、自らのあり方を問われるような瞬間に出くわすことはあるものだ。
例えば仮に、電車の中で、向かいに座ったいかにもなバカップルが、こんな会話をしていたと、ご想像いただきたい。
「ねエねエ知ってる? 『ドラえもん』のしずかちゃんの名字」
「え〜っ? 知らない〜。アンタ知ってんの〜?」
「知ってるよ〜。常識だよ〜」
「何ナニ、教えてよ〜」
「あのね〜、『ミヤモト』って言うの。宮本武蔵から取ったんだよ」
「わ〜スゴ〜イ、アンタもの知りなんだ〜♪」
……どうでしょう、あなたがしずかちゃんの“本当の”名字をご存知だとして、あなただったらここで、たとえ向かいにいるのがアカの他人であったとしても、何かヒトコト言ってやりたいという衝動にかられないでしょうか。
……ちょっと以前にも、こういうことがあった。
劇団の練習中、雑談で手塚治虫の話題が出た時に、今や「歩く無知」が代名詞となっているところの穂稀嬢(ハカセ)が、これなら私も話題に乗れる、とばかりに嬉々としてこう言ったのである。
「私も見てましたよ〜、『ふしぎなメルモ』」
こりゃまた、えらく古いアニメを知ってるものだなあ、そのころハカセ、生まれてたっけ? もしかして再放送で見たのか、あるいはリニューアル版のことだろうかと思って、聞いてみた。
「どんな内容だったか覚えてる? キャンデー嘗めたらオトナになったりコドモになったりするんだけど」
「え〜? そんなんでしたっけ? 私が見てたメルモは女の子と友達になる話でしたけど」
はて、そういうエピソードもあったっけ? と首を傾げていたら、続けて穂稀嬢、こんなことをホザきやがったのだ。
「あれでしょ、メルモって、『トンガリ帽子』をかぶった」。
……はい、みなさん、ご一緒に。
「それは『トンガリ帽子のメモル』だっ!凸(`△´+)」
まあ、穂稀嬢のような女の子が近くにいる場合にはこういう経験はしょっちゅうするのだけれども、まさか職場で似たような目に合うとは、予想もしていなかったのである。ここからが本題。
今日、昼休みに、同僚の二人がこんな会話をしていたのである。一人は30代半ばの男性Aさんで、もう一人は20代後半の女性Bさん。ちなみにAさんは、以前私に、「六月ってこんなに雨が降ってるのにどうして『水無月』って言うんですか?」と質問してきた人だ。
A「……『ムーミン』好きでしたねえ、アニメ、よく見てましたよ」
B「私、まだ生まれてなくて、アニメの方はよく知らないんですよ。原作は1冊だけ読んでるんですが」
A「原作読んでるだけですごいですよ。私はアニメだけですから。ちなみに好きなキャラクターは何ですか?」
B「やっぱりスナフキンですね。Aさんは?」
A「私はノンノンです」
B「ノンノン?」
A「ノンノン知りません? ムーミンの彼女ですよ」
B「それって、『スノークのおじょうさん』のことですか?」
A「スノークは男ですよ! ノンノンはスノークの妹です」
B「だからそれがスノークのおじょうさんじゃ……」
A「Bさん、ヘンですよ。スナフキンやスノークを知ってて、ノンノン知らないなんて」
B「でもノンノンってキャラクター、原作には出てこなかったような」
A「ノンノンはあれですよ、ムーミンと同じで『カバの妖精』で」
「カバじゃねえ、あれはトロールだ!」と心の声が爆発した。
ここでついに私がガマンできなくなってしまったのも、どうかお察しいただきたい。私はできるだけさりげなく、声にトゲが混じらないように優しく、二人の会話に割りこんだ。
私「『ノンノン』ってのは『スノークのおじょうさん』のことですよ」
B「やっぱりそうなんだ! ……でもどうして名前が違うんですか?」
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07月28日(水)
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