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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■ネットではみんな「役者」だ/DVD『恋人よ帰れ!わが胸に』/映画『ゲロッパ!』
 気がついたらヒグラシが鳴いているのである。つい一週間ほど前に夏が始まったって感じなのにもう残暑か。この分だと秋がなくていきなり冬になっちゃわないかな。あるいは暖冬か。年に一回くらいは雪を見たいと思うんだけれど。


 ビリー・ワイルダーボックスから、DVD『恋人よ帰れ!わが胸に』。
 ワイルダーも昔から全作見てやろうと思いながら、未見だったものの一つ。
 ワイルダー作品の中では比較的評価が低いが、それはまあ、ワイルダーにしては、と思って見るからであって、単独で見たらそう悪い出来ではない。なんと言っても、ワイルダーの晩年の作品の中ではほぼ唯一と言ってよいオリジナル脚本(I.A.L.ダイアモンド共同脚本)作品なのである。よかれあしかれシニカルな「ワイルダーらしさ」の横溢した佳作であることは間違いない。
 『七年目の浮気』で起用する予定だったウォルター・マッソー(まだ新人だったマッソーをMGMが嫌った)がようやく出演、ここに初めてジャック・レモンとの名コンビが誕生する。このマッソーのアカデミー助演男優賞演技を見るだけでも充分楽しめる。
 こういう有名な作品の筋を紹介するのは気が引けるのだが、まあ私にとっては初見だからってことでご容赦。

 フットボールの試合中、事故で黒人選手のジャクソン(ロン・リッチ)にタックルされて脳震盪を起こしたテレビカメラマンのハリー(レモン)。義兄で悪徳弁護士のウィリー(マッソー)は、ハリーの脊椎が子供のころ屋根から落ちたのがもとで損傷していることを利用して、チームから莫大な損害賠償を騙し取ろうと目論む。根が善人なハリーはいったんは断るが、別れた女房サンディー(ジュディ・ウェスト)が心配して飛んで来ると知って、ついウィリーの計画に乗ってしまう。ところが罪の意識に苛まれて献身的に看病に日参するジャクソンの姿を見て、ハリーは自分のほうが罪悪感に悩まされる羽目に……。

 タイトルの「恋人よ帰れ〜」は一応レモンの気持ちを表現したものだろうけれども、本編のイメージには合わない。だいたい別れた女房を「恋人」とは呼ばんだろう。原題は“The Fortune Cookie”。お御籤入りの中華せんべいのことである。入院中のレモンのところに運ばれた中華ランチの中に、フォーチュンクッキーならぬ医者の眼を誤魔化すためのクスリの注射器が入っているというシーンがある。運命はどう転がるか、といった暗喩だろう。
 全体が16章の構成になっていて、各章の初めにいちいちタイトルが出るのだが、これがなかなか人を食っていて面白いものが多い。

 1.The Accident(不慮の事故)
 2.The Brother-in-law(義理の兄)
 3.The Caper(悪だくみ)
 4.The Legal Eagles(すご腕弁護士)
 5.The Chinese Lunch(中華ランチ)
 6.The Snake Pit(蛇の穴)
 7.The Gemini Plan(ジェミニ計画)
 8.The Torch(愛の聖火)
 9.The Goldfish Bowl(注目の的)
 10.The Return of Tinker Bell(ティンカー・ベルのご帰還)
 11.The Longest Night(一番長い夜)
 12.The Other Blonde(もう一人の金髪)
 13.The Indian Giver(分け前に群がる人々)
 14.The Taste of Money(金の味)
 15.The Better Mousetrap(巧妙なネズミ取り)
 16.The Final Score(最終結果)

 最初はごく普通に見えるけど、5章なんかいきなり「中華ランチ」である。いや、そりゃ確かに中華ランチは出てくるけれども。
 7章の「ジェミニ計画」って何を大層なタイトル、と思ったら、レモンを監視する探偵が“二人”体制を取るってだけのことだった。
 9章の“The Goldfish Bowl”はもちろん「金魚ばち」のことで、探偵に監視されてるレモンの自宅マンションの部屋のこと。まあ確かに金魚ばちはいつまで見ててても飽きない。たいした変化はないのにね。
 12章の「もう一人の金髪」、なんか謎の女の登場かと思ったら、ただのチョイ役で話の本筋とは何の関係もない。こういうタイトルのつけ方するあたりが人を食ってるというのである。

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08月30日(土)
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