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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■本当にあった怖くない話/『くっすん大黒』(町田康)/DVD『ミニパト』ほか
 もちっとしたら北九州に出張する予定がある。
 しげに仕事の休みを取って一緒に行かないかと相談する。
 「なんで? 仕事で行くっちゃろうもん」
 「仕事は仕事だけど、夜にはカラダ空くしさ、二日間だから一泊したっていいし」
 「もったいないやん。JR使った方が安かろ?」
 「そりゃそうだろうけど、帰りが遅くなったら淋しがるやん、お前」
 「昼は一緒におられんやん」
 「小倉で何か見てまわっときゃいいやん」
 「……北九で何を見るん」
 問題発言が出るなあ(^_^;)。
 「よしひとさんや塩浦さんにも連絡とってみてさ、一緒に食事でもしようかって思ってるんだけど」
 「……すれば?」
 ああ、またこいつ、ヤキモチ妬いてやがる。
 なんでオレが人と会おうとするとすぐジェラしるかなあ。しかも男も女も関係ないし。いや、ジェラシられたらイヤだからしげも一緒にって考えたんだけれど、自分がその場にいるいないは関係ないのね。私が誰かと語ること自体、しげにとっては気に入らないってこと、何度も経験してるけど、こういう悪いクセはいい加減で治してもらわないとマジで困る。しげに一日の行動について何一つ相談ができなくなる。
 そのことが理解できる程度のアタマは持てよな。
 ともかく、出張については私の方からはちゃんと相談したのだ。その返事が「すれば?」なら勝手にさせてもらおう。たとえ当日ほったらかされたとしてもそんなのは知らん。自業自得だ。しげが休みを取るかどうかについても、しげから相談されない限り私の方からはもう、声をかけまい。
 ホント、つまらん言葉で人生損してるよな、しげは。


 いつものごとく、迎えの車の助手席に座って『新耳袋』を読んでいると、しげが「やめり」と文句を付けてくる。
 ボソボソ音読してるからしげが嫌がるのだが、怪談はもともと口伝えを基本としたものだ。黙読するだけでなく、音読することで、その空気を自ら味わうことの何がいけないというのか。
 「そんなに怖がらせるなら、オレも怖い話するよ」
 自信満々にそんなことを言うので、「できるならやってみろ」と私もしげを挑発する。
 「昔、こたつん中に入って寝とったと」
 「ふんふん」
 「起きて、ふとフトンを捲ったら、そこに白ヘビがトグロ巻いておったと」
 「ふんふん」
 「……怖いやろ」
 「別に噛むようなヘビやないやろ」
 「怖いやん! ずっと一緒に寝とったとよ」
 「追い出しゃいいやん。実際、追い出したっちゃろ?」
 「隣りのおばさんに追い出してもらった」
 「よかったやん」
 「よくない! だっておばさん、『それは死んだ母ちゃんよ』とか言うとよ!」
 「母ちゃん追い出したんかおのれは!」
 確かにしげが怖いやつだということはわかったな。私が死んでもコオロギとかカメムシには絶対化けてでて来れんな。殺虫剤かけられてコロリである。 


 晩飯は「マルちゃん」でうどん。
 この店はトッピングが豪華だが、一番美味いのがコロッケである。私もしげも注文したが、売り切れていた。確かこないだ来たときも売り切れてたし、ここのコロッケを賞味するのはなかなか難しい。やっぱり人気メニューなのだろうなあ。仕方なく、テーブルの上に置いてあるネギと掻揚げを山ほど入れてコロッケを食った気分になる。ならんか。
 その足でマルキョウで買い物。
 いつも食材はいろいろ買いこむのだが、しげにメシを作ってやっても、片付けを全くしないので、段々バカバカしくなってくる。結局、私は自分で作った物をあまりしげに分けないまま食べちゃってるのだが、そんな目にあって淋しくはないのか、しげは。
 スパゲティもカレーもカニたまも麻婆豆腐もサバの煮付けも、今日買ったやつも結局、全部私の胃に収まってしまうのだろうな。いや、一気には食べないけど。 


 町田康『くっすん大黒』(文春文庫・410円)。

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07月25日(木)
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