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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■能古島紀行/『ワイド版 風雲児たち』1・2巻(みなもと太郎)
 朝、しげが私より早く起きていることは滅多にない。
 たまに起きているときがあっても、それは単に夜通し寝ていなかった、ってだけのことだったりする。
 私の方は、一見グータラな生活しているように見えても、夜の睡眠だけはちゃんと取っているので、ここんとこはそうひどい病気にもかからずにすんでいる。運動量は減ったが、しげには内緒で散歩なんかしているので、体重もそう増えてはいない。
 しげがしょっちゅうキツイだの眠いだの、体調不良を訴えるのは明らかに栄養の偏重と運動不足が原因だろう(何しろ肉と米しか食わず、野菜と果物は全く取らないのだから、ビタミン不足に陥っていると思われる。脚気になるぞ)。

 休日も、ここしばらくは日がな一日寝ていることが多い。
 ところが先週、ちょっと太宰府に足を伸ばして味をシメたのだろうか、それでも朝はグースカ寝ていたしげだが、10時を過ぎてやっと起きだして来たかと思うと、またぞろ「どこか旅に出たい」と言い出した。
 はっきり言って逃避である。
 休日くらい家事の一つもすればいいのに、料理どころか洗濯も掃除もしたくないしげは、ともかく日常から逃げ出したいのだ。
 そんなのに付き合ってやったって、私も疲れるだけなのだが、怒ればまたヒステリーを起こすのは目に見えている。しょうがなく、「どこに行きたい?」と話を合わせる。
 「どこでもいい、どこか!」
 ますます現実逃避だ。多少ナゲヤリな感じで「島にでも行くか? 能古島」と言ったら、「うん!」と喜ぶ。言ったあとでしまったなあ、遠いなあ、疲れそうだなあ、と思ったが、今更取り消しはきかない。「ちょっと遠いな。志賀島でもいいけど(たいして距離は変わらんわ)」とかなんとか言ってみるが、しげのヒトミはもうキラキラと星が煌いていて、「能古島気分」は動きそうにない。
 覚悟を決めて、タメイキをつきながらダルいカラダを車に押しこんで、姪浜の能古渡船場へ向かう。

 免許を取って半年、もう運転にも馴れていそうなものだけれど、初めての道はやはり緊張するものらしい。しげ、やたらと道を間違える。
 こちらもあまり機嫌がよくないから、つい「何やってんだよ」と文句をつけるが、一本道なのになぜか右折されちゃうんだから、文句の一つも出るのは当然だ。
 「まっすぐ行くって自分で言ってたじゃないか!」
 「だって間違えたんだもん!」
 「言い訳になっとらんわ!」
 「だったらもう帰るよ!」
 「いったん出かけといてワガママ言うな!」
 全然楽しい家族ドライブってムードじゃない。
 それでも予定より早く車は渡船場に到着。
 能古島への船はほぼ1時間に1本だが、ちょうど船が出る10分前だった。乗船料は往復で400円。えらく安いが市営だからなんだろう。一応、観光地だとは言え、それほど客が多いとも思えない。実際、休日の今もフェリーに乗り込もうという客は20人かそこらだ。結構、補助金が出てるんとちゃうかな。

 船に乗るのでしげは相当喜ぶかと思っていたらそうでもなさそう。私が浮かない顔をしているせいなのか、船に酔いでもしたのか。それとも、フェリーの安全防止のせいだろうか、スクリューに“カサ”がかかっていて、しげの大好きな「水飛沫」が見られないせいなのか。何となく最後のやつの公算が高いが、そんなの私のせいじゃないのでいちいち慰めてはやらない。
 島を背にした席に座ったので、ちょうど博多湾を一望に見渡せる。
 昔に比べると、本当に高い建物、そして「広い」建物が増えた。福岡ドームだとかなんとかホテルとかの類だが、ホテル関係のあの横広さはいったい何なんだろうね。そのくせ幅はないから、地震が来たら横にへにょっと倒れそうに見えて危なっかしいんだけど。

 島に着くと、同乗して来た人たち、ほとんどがツアーの客だったらしく、観光バスに乗りこんでどこぞに向かう。
 観光案内所でマップを貰い、島の北端にアイランドパークってのがあることを知る。何しろ衝動的に来ているもので、どんな施設があるかよくわかってないのだ。
 しげに「このアイランドパークってとこに行ってみる?」と聞くが、つまらなそうに「いい」と断る。

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06月29日(土)
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