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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■揉んだら出る/『松田優作物語』6巻(完結/宮崎克・.高岩ヨシヒロ)/『仮面ライダーSPIRITS』3巻(石ノ森章太郎・村枝賢一)
 ようやく梅雨らしくなったか、今日もそぼ降る小雨。
 ……ちょっと気になったけれど、そぼ降るの「そぼ」って何?
 語感から判断するに雨降りの擬音じゃないかとは思うが、自信がないので『日本国語大辞典』を引いてみる。
 万葉時代から平安、鎌倉のころまではは「そほふる」と発音していたようだ。「そぼ降る」形に変化したのは近世に入ってから。「そほ」というのはやはり「そほそほ降る」という擬声語からきたもの、という説が有力なようだが、「細小降(さおふる)」の意味、なんて説もある。「そ」は「衣」のことで、「ぼ」は「下に沈む」意、つまり、衣に水が染みとおる意を表す、なんて説は、もうほとんどクイズである。
 語源探索の世界は、何万という文献を調べて、ようやく単語一つの語源が類推できる程度という、努力が実を結ばない世界だから、牽強付会な説が横行するのも仕方がない面はあるが、自説を披露するにしても、あと一呼吸して落ちついて考えてから発表した方がよかったんじゃないかと思うが、どうか。


 いつものように職場までしげに迎えに来てもらったはいいのだが、途中で銀行に寄って札束を十億円ほど卸したときに(←だから意味もなく見栄を張るなってば)、カバンの中にサイフがないことに気がついた。
 さて、職場で背広から出して、カバンの中に突っ込んだのは確かに覚えているのだが、そのときにチャックを締めたかどうかが記憶にない。
 となると、考えられるのは、落としたか掏られたかだが、まあ十中八九、前者だろう。ウチの職場には生活に困ってヒトの財布をくすねなきゃいけないような貧乏人は一人もいない。それでもあえて、一番の貧乏人は誰かと問うたなら、その答えは私だ(^_^;)。自分で自分のサイフ盗んでどーする。
 またなあ、「ちょっと職場に戻って」とか言ったら、しげのやつ、ブツクサブツクサ15時間ぐらい愚痴りまくるんだろうなあ。
 かと言って、ニョーボに叱られるのが怖くて黙ってたって、いつかはバレるのである。それに、私のサイフの中にはカネはほとんど入っていないが、映画館やビデオ屋やカラオケ屋のカードだのはギッシリ入っているので(サラリーマンのサイフじゃねーよ、それ)、もしも誰かに盗まれたら、そいつは「何の役にも立たんやんけ!」と激怒するだろうが、私は大損なのである。
 しげが文句つけられるのを覚悟の上で、「ごめん、職場まで引き返して」と頼む。
 「なんでいきなり!」
 「財布落とした」
 「……どこに!」
 「多分、オレの机の下」
 「ホント? 間違いないと?」
 「うん、ハッキリ覚えてるから大丈夫」
 ハッキリ覚えているのなら、財布を落としたまま忘れたりするはずもないのだが、そこはあえて自分で自分には突っ込まない。
 しげ、なおも疑わしげなジト目で私を見ていたが、どうしたわけか、急に泣き出しそうな顔になった。
 「どしたん?」
 しげ、ガマンできない、といった表情で、「オナカ痛いと!」と叫ぶ。
 「腹が痛いって……なんで?」
 「知らん。早く帰ってトイレ入ろうって思ってたのに」
 「……なにか悪いものでも食べたんか?」
 「知らん。オナカ冷えとうとよ」
 それはつまり、寝冷えしたということではないのか。しげはムチャクチャ寝相が悪いので、朝起きるとフトンも毛布も蹴っ飛ばして、下半身丸出しで寝ていることがしょっちゅうなのだ。これではおなかを壊さないはずがない。
 「寝冷えだろ? それ」
 「わからん。ともかくオナカ痛い」
 「腹、さすっちゃろか?」
 わざわざいったん帰ってきた道を戻ってもらうのだから、少しは親切にしてやらないと、と思って、しげの腹に手をやった途端、つい、魔が刺した。
 しげの腹は太い。
 新婚当初のキュッと締まっていたあの可憐な面影はどこへやら、今や「肉の大陸」、家族10人分はあろうかという「鏡餅」と化している。
 そんなところに手をやろうものなら、ホラ、アノ、揉みたくなってしまうではないか。
 で、つい、揉みました。
 途端に走るしげの絶叫。
 「揉むなー! 揉んだら出るー!」 
 揉んだら出るって……出すなよ。 

 サイフは無事、机の下に落ちていた。

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06月25日(火)
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