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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■杉浦日向子さん死去/『ラインの虜囚』(田中芳樹)
 それよりも何よりも、コリンヌを守る“三銃士”たちの、男としての魅力、冒険小説の主人公はかくあるべしと言いたくなるような知謀、勇気、正義感、豪胆さにこそ、この小説の魅力を見るべきであろう。
 「自分で自分の身を守りたい」と、モントラシェに剣を学ぼうとするコリンヌ。しかしモントラシェは、いったんはコリンヌに剣を持たせながら厳然とこう言い放つ。「よし、それでマドモアゼルは、自分を殺す権利を相手に与えたわけだ」と。モントラシェは剣士である。だから武器を取った戦いそのものを否定しているわけではない。しかし、武器を取る必要のない者、自らの立場も実力も弁えぬ者が武器を持つ愚を、「匹夫の勇」の危険さを、静かにコリンヌに諭す。なんかもー、「現実の戦争を見たい」とか言ってイラクに行きたがるあほどもに聞かせてやりたい台詞だ。「戦場に行く」ってこともつまりは「殺されても構わない」といってるのと同じなんだからな。
 少年少女向けだからと言って、いや、少年少女向けだからこそ、ただの奇麗事ではなく「戦うこととは何か」を手を抜かずに語る作者の姿勢は好感が持てる。必ずしもその理屈が「現実の戦い」の全てに援用できるとは言えないが、基本的な概念としては決して間違ってはいないだろう。
 まあ、浅薄なアニメやファンタジーが、やたらヒロインに「私も戦いたい!」と叫ばせて突然超能力を発動させたり、たいした訓練もしてないはずなのに剣を振るわせたりするのに比べたら、本作の底に流れている思潮はずっとずっと気高く美しいのである。

07月25日(月)
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