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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■ある正義の死/『日本庭園の秘密』(エラリィ・クイーン)
このことは先日、よしひと嬢にも話したのだが、「翻訳者である前に、作家でないといけないですよね」と仰っていた。蓋し、至言であろう。
翻訳のミスを割り引いて考えれば、クイーンへの評価は格段に上がると思う。しかし、この『日本扇の秘密』が大傑作かというと、そこまで言えないのもまた事実である。
トリックも既成作品に依拠しているものがあるし、何よりある人物の心理の過程に不自然さがありすぎる(誰かは書けんが)。読了したあと、どうにも「しこり」が残るのである。
けれどやはり私はこの小説が好きだ。日本知識をひけらかす作者クイーンの稚気がこれだけ感じられる作品も滅多にない。カレンの書いた小説のタイトル『八雲立つ』のタイトルはもちろんラフカディオ・ハーンの筆名、元をたどれば日本最古の和歌と伝えられる「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」(素戔嗚尊)から取られているし、スコットがエヴァの足にフェティッシュな執着を見せるシーンなんか、まるで谷崎潤一郎の小説である。クイーンが谷崎を戦前に読んでいたかどうかは定かではないが、クイーン編によるアンソロジー『日本文芸推理12選&ONE』では谷崎の『途上』を選出しているから、もしかして以前から作品に親しんでいた可能性はある。
長くなったので続きは明日。
06月13日(金)
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