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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■伝統と革命の間/『蟲師』2巻(漆原友紀)ほか
 蟲師たちの語る「蟲封じ」の物語だけが彼女を救うことが出来る唯一の望みだが、それはその一生にのみ終わることではなく、何十年、あるいは次の世代に生まれてくる「痣を持つ者」にまで受け継がれる宿命なのである。
 ギンコは語る。
 「蟲に体を侵食されながら、蟲を愛でつつ、蟲を封じる。そういう娘が一人いる」
 彼の言を聞いて思う。
 我々人間が持つ「心」そのものが実は「蟲」なのではないだろうか。
 我々は自らの心に侵され、それでも自らの心を愛し、自らの心を封じていく。
 我々が心と心で絆を作ることに悩み苦しむのは、まさしく「生きる」ことが、心に侵されていく過程に他ならないからのように思えてくる。
 なのに、淡幽は自らの宿命を受け入れる。
 蟲を受け入れる。
 自らの心を受け入れる。
 そして最後にギンコに語る。
 「生きているんだよ」と。
 そうだ。
 「生きる」ということは、このどうにもならない「心」を抱えていくことを憂えることではないのだ。この苦しみも、悲しみも、引き受けねばならない者たちが共通して持っている共感を持つこと。
 それが「絆」だということをこの足萎えの少女は語っているのだ。
 「蟲」は「群生」する。
 しかし、我々人間も、その儚い命を群生することにより満たしあっているのではないか。
 それは「癒し」などという適当な言葉で表せるような軽いものではなく、もっと深く、原初的なもののように思える。

 さあ、みんな、『蟲師』の2巻を買いなさい。

02月26日(火)
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