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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■伝わらないことばかりだけれど/『金魚屋古書店』2巻(芳崎せいむ)
 落ちまで書くのは控えるが、このエピソードに泣ける理由は、「伝わりようもないことを伝えられた」そう思えるからだろう。言葉は、自分の心の何%も伝えることはできない。言葉は常に歪み、浮き足立ち、そこいら中を跳ね回り、相手に手渡された時には元の姿の片鱗すら遺してはいない。しかも受け手は、そんなわずかな残骸すらも曲解してくれる。言葉が虚しければ、本もまた虚しい。けれども我々は言葉しか、心を伝えるすべを持たないから、懸命になって語り、むさぼるように本を読む。そしてすっかり疲れ果て、ふっと気を抜いた時に ―― 言葉を越えた「何か」を掴んでいたことに気が付くのだ。
 このエピソードの最後の2ページには殆ど言葉がない。にこやかな微笑と、呆然とした顔と、そして去り行く足元が映し出されるだけだ。けれどもその静謐さが、何よりも雄弁に「語りたいこと」を表している。それはやはり、言葉にはできない「思い」なのである。

10月02日(日)
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