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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■いつでも危険と隣り合わせ/『沈夫人の料理人』3巻(深巳琳子)
 何よりやはり、ヒロインである沈夫人のサドな魅力が、本作を他の凡百の料理マンガと一線を画す要因となっている。もちろん、サドなだけが彼女の取り柄なのではない。彼女はただの意地悪女ではなくて、豊かな知性と、李三の料理人としての類稀なる腕を見抜いている洞察力、あまりに惨めっぽい李三についほだされてしまう可愛らしさ、そういったものを併せ持っていて、だからこそどんなに高慢ちきな態度を取っていても許せてしまうのである。
 最初は前近代の中国を舞台にした料理マンガとは、気を衒ってるばかりでそんなに続かないんじゃないかと思っていたのだけれど、1巻より2巻、2巻より3巻と、俄然面白くなっている。1巻のころにはまだ自信なさそうな線も次第に伸びやかに、整ってくるようになり、登場人物たちの表情も実に生き生きと、微妙な感情まで表現できるようになっている。


 マンガ、細野不二彦『ダブル・フェイス』7巻(小学館)。
 『ギャラリーフェイク』に比べるとエピソードごとに何となくムラがあって、これまではやや停滞気味だった感じの本作。『フェイク』がめでたく完結したので、作者はこちらの連載の方に力を入れるようになったんじゃないかと想像していたのだが、これがそれほど面白くなってはいないのだね。
 まあ確かに「春居筆美」の正体に小泉じゅんが少しずつ迫っていく過程は面白くはある。けれど、Dr.WHOO以外のキャラクターをあまり非現実的なものにしてしまうと、肝心のDr.WHOOが霞んで見えてしまうのである。あの「シロウサギ」ってのは何なんだろね。
 シロウサギの陰謀(ってのが、Dr.WHOOとの過去が具体的に描かれないから、どういう陰謀かもよく分かってないのだが)を食い止めるために、Dr.WHOOがシロウサギの愛娘を誘拐するってのは、細野さん、アタマでもイカレたのかと疑いたくなるくらいにデタラメな展開である。
 それじゃあ、Dr.WHOのほうが明らかに「ワルモノ」じゃないのよ。読んだあと、何とも重苦しい気分なって、とてもカタルシスなどは得られなかった。
 連載が長くなると、「これはいったいどうしちゃったんだ」って言いたいくらいに話が矛盾だらけになり、迷走する癖をこの作者は持っているのだが、今回もそんな感じになりそうな気配である。
 あまり長く続けずにあと1、2巻くらいで完結させるのがよかないかなあ。

08月15日(月)
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