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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■日田屋形船と鵜飼い見物/『仮面ライダー響鬼』二十七之巻 「伝える絆」
 父は控え室の窓からビデオカメラで三隈川の景色をずっと撮っていて、乗客みんなが出て行くのにも全く気が付かない。「そろそろ時間だよ」とせっついて、一階のロビーに集合する。
 ホテルは直接、川岸に面しているので、屋形船には玄関からではなくてロビーの窓から降りて乗りこむ形。見ると、あっちのホテル、こっちのホテルにもずらりと屋形船が並んでいる。鵜飼い見物はこのあたり一帯のホテルが共同で企画しているもののようだ。
 舟に乗りこんで初めて「鵜飼いの舟が来るのは八時前」と聞かされる。って、まだ六時半じゃないの。いくらなんでも待ちが長すぎるんじゃないのか。
 けれどそれは杞憂であった。前に並べられた御膳の夕食が、ちょっと半端じゃないくらいに大量にあったのだ。食前酒に鮎の姿焼き、刺身にから揚げにステーキに煮付けに団子、海老に海老に海老に海老、鍋にまたしてもそば、グレープフルーツ、最初はやはり刺身のシャキシャキした食感に舌鼓を打っていたのだが、食っても食っても食いきれない。次第に食が進まなくなって、ちょうど食べ終わったころに周囲は真っ暗になり、鵜飼いの舟が次々とやってきた。
 屋形船は、川の中ほどで合体して繋がって停まっている。そこへ、下流の方から先頭に篝火を炊いた舟が一艘、また一艘と、川面を滑るようにかなり速いスピードで近づいてくる。火は見えるが、鵜が乗っているかどうかは分からない。けれど、何週か屋形船の周囲を回った後で、一艘の舟がちょうど私としげが座っている場所の真後ろにぴったりと縁をくっつけてきた。
 「があがあ」と声が聞こえる。ここまで間近なら、私にも篝火の下に群れをなして羽を広げている鵜たちの姿がよく見える。一羽一羽が意外に大きく、ちょっと羽ばたけばこちらにまで飛んで来そうだ。しげは怖がって背中を向けたままだが、それではかえって怖くなるばかりだろう、「前を向けよ」と向かせる。でも前を向いても怖がっている様子がありありだ。
 鵜飼い舟は五分ほどで縁から離れて行った。鵜飼いの実演はなく、鵜を見せに回ってきただけのようだ。多少、看板に偽りありだが、季節の関係でいつもいつも鵜飼いを見せられるものではないらしい。まあ、鵜の実物は見られたので、一応満足ではある。

 その後、母と祖母の灯篭を流す。
 母の灯篭がしばらく流れずに屋形船にくっついていたのを、船頭さんが熊手で川の流れのあるところまで押しやった。
 その様子をビデオカメラで撮りながら、父は「お母さん、なかなか帰らんなあ」と呟いた。
 「これでお盆も終わりたい」と言うので、「明日はどうするの?」と聞いたら、「明日って何や?」とキョトンとした様子。
 「灯篭流したら、明日はもう送り火はせんの?」
 「あ! 送り火があったったい!」
 もう何でもかんでも忘れるのである。そりゃ母も流れて行きにくかろう。

 帰りのバスでは。父も私もぐっすり眠ってしまったが、しげは眠られなかったそうだ。さてまた何を興奮していたものか。

08月14日(日)
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