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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■石井輝男監督、死去/『月館の殺人』上巻(綾辻行人・佐々木倫子)
 即ち、このマンガの最大のトリックは(って、まだ上巻の段階で決め付けるのも早計かもしれないが)、「佐々木さんの絵では誰も犯人に見えない」「佐々木さんの絵でミステリーを描かれても笑ってしまって犯人探しをする気になれない」というメタトリックであるのだ。これは坂口安吾の『不連続殺人事件』を江戸川乱歩が「安吾氏の文体では全ての人物が犯人にしか見えない」と評したのと正反対の効果を生んでいる。だからこそこのミステリは「マンガ」として描かれなければならなかったのではないか。
 いや、もう私はこのマンガに関してはトリックの解明とか、そういうのは放棄してひたすら佐々木さんのほほんギャグの世界に浸りたいと思う。
 「いきなりぎっくり腰」のお母さんも、「あえてセルシオに乗る」弁護士さんも、「選ばれたのだから」の乗客たちも、「ホームを表定速度60キロで走る」お婆さんも、もちろん「この中から結婚相手を選べってことなのね!」の思い込み空海ちゃんも大好きだ。読んでない人には何のことか分からないだろうが、これ全て本作のお間抜けギャグなのである。
 そして、この笑いの果てにはきっと、我々の予測を見事に凌駕した奇想な真実の解明が行われることをぜひ望みたい。

08月13日(土)
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