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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■アレももう幻の名作/『ふたつのスピカ』3巻(柳沼行)/『定廻り同心 最後の謎解き』(笹沢左保)
 さて、ストーリー的には、この先、平八、おさと、おりんの三角関係はどうなっちゃうんだろう、と気を揉むところである。近松門左衛門だったら、即、「道行」ってことになっちゃうんだろうけれど、笹沢さんは意外なくらいにあっさりと結末を付けてしまう。
 初夜の後も何度も逢瀬を重ね、狂おしいほどに求め合った平八とおさと、誰に諌められるというわけでもなく、さばさば別れてしまうのである。おりんもそのころにはようやく真実に目覚めていた。というわけで、三方めでたしめでたし。
 あまりにもあっけらかんとしていて、なんだかキツネにつままれたような結末ではある。もしかしたら、体力的にも気力的にも、これ以上の描写を笹沢さんはできなくなっていたのかも、とゲスの勘繰りをしたくもなる。
 けれど、笹沢さんの考える「江戸の粋」ってのが、こういう「潔さ」にあるんじゃないかな、とも思うのだ。本来、平八とおさとは、結ばれるはずのない二人だった。それが、ふとした縁で再び巡り会えた。けれど、これは本来あってはならぬことである。そのことを二人は自覚していた。初めから二人は、これが別れるための出会いであることを知っていた。そういう縁もあることを知ることが「粋」の本質なんじゃなかろうか。
 笹沢氏のダンディズムは、よく木枯し紋次郎に譬えられたが、原作の紋次郎は乾いているようでいて意外と女々しい。自分の無力に背を向けて逃げている印象すらある。紋次郎のその後ろ姿は、粋になりたくてなりきれなかった笹沢さんの投影、とも見える。紋次郎に比べれば、平八もおさとも実にサッパリしていて気持ちがいい。笹沢さん、この二人を書きながら、内心、羨ましく思ってたんじゃなかろうか。
 380冊の著書だって相当なものである。なのに400冊に届かぬ自らを悔しく思う自分自身を「オレもまだまだ粋にゃなれねえな」と自嘲する笹沢さんの姿が、平八とおさとの向こうに見えるような気がする。


 マンガ、柳沼行『ふたつのスピカ』3巻(メディアファクトリー/MFコミックスフラッパーシリーズ・540円)。
 前巻でアスミを思いっきり落ちこませた“悪役”佐野先生が、あっさりと“改心”して退場。……作者が優しいせいなんだろうなあ、どうも徹底した悪人ってのを描けないのだね。ドラマ的にはこれって「弱点」になっちゃうんだけど。
 心を閉ざしていたライバル・マリカも、もう心を開き始めた。まだ3巻なのに展開速すぎ……っつーか、人を信じ過ぎてないか? この作者。
 こうなるともう、あと1巻くらいで終わらせちゃった方がよくないかなあ。長いドラマを引っ張るってことがこの作者には難しいみたいだし。

01月15日(水)
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