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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■またまた風邪悪化/『別冊宝島Real まれに見るバカ女』/『宇宙をぼくの手の上に』(山本弘)ほか
 読んでつまんなかったらどうしよう、と考えていたが、幸いそれは杞憂に終わった。
 書きだしが魅力的かどうかで、その作品が秀作かどうかの判断ができる、とはよく言われることだが、SF作品は特にその傾向が強い、というのが私の持論だ。
 冒頭の、「灰色のコートの刑事が私のアパートを訪ねてきたのは、高速シャトルシップが惑星シュードベリ1のトリポリウム採掘基地に到着した時だった。」、ここから既に「仕掛け」があるのに気づいて、思わずニヤリとした。。これはいわゆる「叙述のトリック」である。
 「刑事が私のアパートを訪ねてきた」時と、「シャトルシップが基地に到着した時」は、同一時間軸にはあっても、「世界」が違っていたのだ。よく読めば、「刑事」と「シャトル」の違和感からそのことに気づくのだが、さりげない筆致が効果的で、ミステリを読みなれてない人は結構引っかかってしまうだろう。上手いなあ。

 主人公の深宇宙探査船のキャプテン、「ジニ・ウェルナー」 ―― というのはネット上のハンドルネームで、本当はごく普通のOL、椎原ななみのアパートに、刑事が殺人事件の捜査に現われるところから物語は始まる。
 この刑事、ネットで同好の士を募ってリレー小説を書いているななみに対して、捜査そっちのけで「その歳でマンガのごっこ遊びは恥ずかしいんじゃありませんか?」なんてオタクに対する偏見丸出しの説教を始める。
 いるよな、パソコンやってる人間を勝手に「ヒキコモリ」と決めつけるヤツ(`´)。そりゃ、そういう人間も中にはいるんだろうが、全てのパソコンユーザーを十把ひとからげにして括りたがるのは、自分の理解の範疇の外にある人間を蔑むことで自己防衛を図ろうとするさもしいヤツの心理である。
 以前、私の務めてたとこの上司が全くこういう外道で、しかも職場の若い女の子にセクハラばかりしてやがったからなあ。なるほど、引きこもらないヤツは女にすぐ手が行くらしい(^o^)。
 このあたりの描写、山本さんもいろいろイヤな目に遭って来たんだろうなあ……( ̄-  ̄ ) 。
 それにしてもこの刑事、聞きこみの相手をムッとさせるような捜査してちゃ、刑事としてはヘボなんじゃないか。果ては生半可な知識で「ゲームだのインターネットだのに1日何時間も熱中してると、頭がバカになってくるんだそうですよ」と来たもんだ(例のトンデモ『ゲーム脳』論ですな)。仕事ほっぽらかして余計なこと言ってんじゃねえ。~凸(-~~- )。

 あとのストーリーをはしょって紹介するとこんな具合。
 刑事からななみは、彼女の主催するに参加していた少年、谷崎祐一郎(HN「ショウン」)が、殺人事件を起こして逃亡中の身であり、自殺の恐れもあることを聞く。谷崎少年は、自分をいじめてきた同級生たちを、思い余って殺してしまったのだ。
 彼女は初め、ネット上では優しくおとなしい「ショウン」がそんな殺人を犯すなど信じられなかった。しかし、それがいよいよ事実だと判ったとき、なんとか彼の命を救えないかと懸命に思案する。
 そして彼女の思いついた方法というのが、リレー小説の続き、危機に陥った宇宙船クルーの命を助ける展開ををショウンに書かせることだった。たとえ虚構の中であっても、誰かの命を救う行為に従事することが、現実の彼の自殺を思い留まらせることに繋がるのではないか……。
 このアイデアはいったんは効果をあげる。どこにいるかわからない谷崎少年は、「ショウン」としてに書きこみを始めたのだ。
 それでも物語のなかに「自殺」を持ちこもうとするショウンの書きこみを見て、ほかのクルーたちは次々とショウンを救う手段を提案していく。その結果、ついにショウンは自首することを決意する。

 多分、私がこのアイデアで小説を書けば、ラストは悲惨なものになっていたと思う。谷崎少年、パソコン抱いたまま死んでるシーンで終わり、とか。
 山本さんのつけた結末は、一見すると「甘い」し「安易」だ。「現実には、そう、うまくいくわけないじゃん」と批判することも簡単だろう。

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01月13日(月)
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