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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■世界の中心で馬鹿と叫んだ女/『彼氏彼女の事情』13巻(津田雅美)ほか
この「つまんなくなかった」というのがクセモノで、その「オトナの事情を考慮しても面白いアニメは作れるんだから、そういう事情はあってもいいのだ」という発想にスライドされちゃうのが困りものなのだ。
表現の規制が肯定されていいわけはないんだけどねえ。
鴉丸嬢はテレビで『しんちゃん』がかかっていても、全く目を向けようとしない。ここまで「嫌い」を押し通すってのは、それはそれで徹底していて潔さそうではあるが、未だに「なぜ嫌いなのか」だけは口にしようとしない。あれだけ悪口好きなくせに、この点だけは不思議なことである。
ようやく時間がきたので、しげ、鴉丸嬢を車で其ノ他君ちまでお送りする。
……やっぱり女性が二人以上集まると、男は勝てんねえ(^_^;)。
マンガ、津田雅美『彼氏彼女の事情』13巻(白泉社/花とゆめCOMICS・410円)。
今巻より「有馬編」のスタート、だそうな。
んー、ここんとこ脇キャラの番外編的な展開ばかりだったから、ようやく本筋に戻ってきたって感じかな。
確かに、プロローグとしては充分に面白い。
優等生の仮面の後ろでどす黒く蠢くもう一人の有馬……というよりそれが有馬の本性だったりするんだけれど、これが今後どのような形で「発動」して行くのか、それが宮沢雪乃との関係にどのような変化をもたらすか、適当にお茶を濁さずに描き切ってくれれば、随分面白いことになりそうだ。
考えてみれば、この物語、宮沢の「見栄」から始まった物語なのである。
何巻だったか、結構初めのころだったけれども、宮沢がイジメにあったあと、その首謀者に向かって、「私ならもっとうまくやる」みたいなセリフを吐いていたこともあった。
他人を騙し、誤魔化し、仮面をかぶってやり過ごし、巧言令色、権謀術数は社会の常識、みたいな冷徹な視点がこの作品には元からあったのだ。
リアルである。作者の人間認識がどのようなものか、窺い知れる。
しかし、奇妙なことに、その人間観においてはこのマンガ、実にリアルでありながら、同時にアンチリアルというか、いささか前近代的な要素・設定もこのマンガには見られるのだ。
なんたって、有馬は、もともと「メカケの子」であり、今の両親に貰われた「貰われっ子」であるのだもの。おいおい、そんなん小説だったら昭和の半ばあたりでもう絶滅してるような設定だぞ。『赤と黒』か『日のあたる場所(アメリカの悲劇)』か『安城家の舞踏会』かってなもんで。少女マンガにはそれがまだ生き残っている……というより、作者は何となく「ワザと」そんな古めかしい設定を作中に持ちこんでいるような気がする。
ドラマがそこまで現実から乖離していないと、有馬の憎悪はリアル過ぎて、「花ゆめ」の読者にはキツイ、と作者は判断したのかも知れない。
作者自身は、極めて「現実的」な人なのではないだろうか。
コミュニケーションとは自分を相手の前で「作る」ことであり、決して本性をさらけ出してはならないと、なんだか藤村の『破戒』を想起させるような「戒律」を自分に科して生きてきたんじゃないかって気もする。
いや、憶測でたいした根拠があるわけじゃないんだけれども、実際にこのマンガ読んでると、この人、愛だの恋だの、思春期の夢物語は余り信じていないように思えるんだよ。
だって、有馬が本気で宮沢を愛すれば愛するほど、二人の道は遠く離れるように設定されてるんだもの。有馬の本性は、かつて自分を蔑み、罵倒してきた者たちへの「復讐」にあるんだから。
この物語が「悲劇」とならずにハッピーエンドを迎える可能性はあるのだろうか。そのへんを、作者に聞いてみたいくらいだけれど、もし悲劇として押し通すことができたら、これはもしかしてスゴイ傑作になるかもしれない。
……なんだか、このままいくと有馬、人の一人や二人くらい殺しそうな気配があるんだけど、少女マンガでそこまでやるかなあ。
やってくれたら面白いね。
05月18日(土)
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