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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■追悼、柳家小さん/映画『モンスターズ・インク』/『カスミ伝△』2巻(唐沢なをき)ほか
 五代目柳家小さんさん(「師匠」と言わずに「さん」付けだと愛嬌が出るなあ)が16日午前5時、急性心不全のため。享年87歳。
 「落語界初の人間国宝」と書かれてあったのを見て、「そう言えばそうだった」と思い出した。師匠には悪いけれど、そういう肩書きに一番縁遠い芸風だった気はするが。かと言って、談志に与えられるはずもない称号であるし、志ん生、円生なきあと、「落語界にも一つ『人間国宝』を」てなときに小さん師匠以外に対象者がいなかったってのは事実なんだけど。……志ん朝さんがあと十年生きてりゃね。
 貶してるみたいだけれど、私の落語の素養は小さん師匠から始まっている。
 小学校のころ(多分5年生くらい)、母親にねだって買ってもらった初めてのLPが小さん師匠の『たらちね』だった。母親がよく「あ〜らわが君」とか「今朝(こんちょう)は怒風激しゅうして小砂(しょうしゃ)眼入す」なんてギャグを口にしていたので、モトネタを知りたかったのである。で、LPが擦り切れるまでホントに何百回も聞いた。
 おかげでこの落語は今でも「小さん師匠風に」暗唱できる。
 「自らコトの姓名を問いたもうや?」
 「……えェ、大家さんが清兵衛だってのは分ってんスけどね、アナタサマのお名前をお聞きしたいんで……」
 この「……」の間と、カタカナの発音をご想像頂きたいところだ。ただ、今にして思うに、下手とまでは言わないが、「至芸」という感じはしなかった。やはり、油の乗りきっていたころの談志や、艶のあったころの円生にはどうあがいたって勝てないのである。
 しかも師匠、言い間違えてやがるし(^_^;)。
 「ある夜、丹頂の鶴を、ある夜夢見るが故に千代女千代女と申せしが」って、「ある夜」が畳語になってるのもそうだけど、第一、鶴を夢見たんなら、名前は「鶴女」でなきゃおかしいじゃん。これ、録音したほうも録り直しくらいすればいいのに……って、それをしてないから貴重ではあるのだが。

 てなわけで、噺家としてあまり高くは買ってなかったんだけど、テレビで『狸賽』のオチを見たときには、「ああ、この芸だけは小さん師匠に敵う人はいないな」と思った。
 いわゆる「仕草オチ」の代表的なもので、八っつぁんがイカサマバクチをしようとして、狸をサイコロに化けさせる噺である。一の目を出してほしくて「天神様だ天神様だ」と唱えてサイコロのツボを取った瞬間、狸がしゃっちょこばって衣冠束帯で鎮座している、というオチね(これも解説がいるか?)。
 いや、寄り目で口とんがらせて力んで赤くなってた小さん師匠、狸というよりタコに似てたね(^o^)。地顔がもともと丸いからウケただけじゃん、と突っ込みが入りそうだけれど、そういう単純な見方をしていいものかどうか。自分の肉体の特徴を生かすことを考えるのは芸人なら当然のことだと思うけど。
 小林信彦や立川志らくあたりは「ヘンな顔で笑いを取るのは最低の芸」とかワケシリ顔に言いそうだけど、じゃあ、円楽の顔で『狸賽』の笑いが取れるのかってんだ。「語り」が終わって、タメずに「仕草」にサラリと移ってたのもよかったよ。 
 年を取って、白髪は増えたが(もともとハゲの印象が強いのに、それでも白髪があるのがハッキリ見えるのがフシギだった)、痩せ衰えた感じはなかった。
 師匠、前の夜に、ちらし寿司をぺろりとたいらげたあといつものように就寝。そのまま、朝になったらなくなってたのが分ったそうだけど、いかにも「らしい」死に方で、少々微笑ましくさえある。


 しげ、だいぶ体調がよくなったので行きは車で送ってもらえる。
 けれど帰りはまた時間になっても迎えに来ない。
 連絡を入れたら、「時間を間違えた」だと。
 さすがにもうタクシー代を出す余裕はない。
 「どうすんだよ、迎えに今から来れるのか」
 「仕事早いからムリ」
 「……じゃあ、歩いて帰れってか」
 「仕方ないねえ。おカネ出してやるからタクシー乗ってきィ」
 ……出してやるからじゃないだろう(--#)。


 しげは仕事に出かけるのだが、私はそろそろ映画に飢えている。

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05月17日(金)
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