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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■ケーキとシュークリームと焼き鳥と/『ヒカルの碁』15巻(ほったゆみ・小畑健)/『細腕三畳紀』(あさりよしとお)ほか
 佐為がついにヒカルの前から姿を消し、その姿を追って、因島へ、更には東京へ舞い戻り、「二度と碁は打たない」と泣き崩れるまでのヒカルの心理の流れが実にスムーズでリアリティがあるのだ。ドラマはやはりキャラクターの心のうねりが作り出すものなのだなあ、と感心する。
 連載の方はいよいよ塔矢との久しぶりの対決なんだけど、ここで完結させられれば、多少の物足りなさは残っても、いい締めくくりになるようには思う。けれど実際には、人気のある限り、これからも連載は続いて行くのだろう。そうなればそうなったで、ある意味、ヒカルが燃え尽きるまで(あしたのジョーかい)、あるいは時代をポーンとすっ飛ばして未来まで行っちゃってもいいかもしれない。ここまで来ると、多少トーンダウンしても、行けるとこまで描いて行ってほしいという気持ちも起こってくるのだ。


 マンガ、あさりよしとお『細腕三畳紀』(講談社・500円)。
 あさりさんの、恐らくは世界で唯一の「三葉虫マンガ」(^o^)。
 と言うか、三葉虫をネタにして、これまであさりさんが描いてきたギャグ・SF・ナンセンス・怪獣・特撮・魔女っ子・オタクマンガの手法を全てぶちこんだような、ベスト・オブ・あさりよしとおのような体裁になってるのが凄い。
 ……あさりさん、燃え尽きつつあるんじゃないのか。
 こう言っちゃなんだが、あさりさんは自分のオタク趣味さえ表に出さなければ、もっとブレイクしたっていいマンガ家なんである。ウケるネタ、ドラマツルギー、キャラクター造型、それぞれにおいて傑出した才能を持っていることはわかるし、例えばあさりさんが本腰を入れて、『ゴジラ』をシリアスに漫画化したとしたら、とてつもない傑作ができるだろう。
 ところがあさりさんが実際に描いちゃうのは『中空知防衛軍』であったり、今巻の『マーくんの場合』のような「怪獣対巨大三葉虫」だったりするのだ。パロディは日本においてはまだまだ市民権を得たとは言えない。偉大なる吾妻ひでおにして、決してメジャーにはなれなかった。パロディは、日本マンガシーンにおいては、自らをマイナーのワクに閉じ込めるものでしかないのである。

 今巻に『佐藤くんの場合』という短編がある。
 悪の組織に就職した平凡な青年が三葉虫怪人に改造され、「その日」が来るまで待機任務についている、その平凡な日々を描いたものだ。
 なんの変哲もないアパートの四畳半での普通の日々。
 三葉虫ということで近所の子供が石を投げる。
 同窓会の電話が来るが、もうこの姿では顔は出せない。
 何も知らない実家の母親から送られて来たラーメンを啜る。
 モビルスーツのプラモを買ってきて作るのが唯一の楽しみ。
 そして「その日」は来る。
 彼がアパートの窓から見た、最後の夕日の街並み。
 彼は呟く。
 「どうして平凡に生きようと思わなかったんだろう……」
 三葉虫の流す涙を見ながら、あなたは泣くだろうか、それとも、失笑するだろうか。確実に言えることは、これはオタクのためだけに描かれたマンガであり、オタクにしか理解できないマンガであり、これを読んで感動する、泣けるということがオタクであることの証明であるということだ。
 三葉虫がいなくなった街で子供たちが会話する。
 「どこかで元気にやってるかなあ」

 誕生日に、こんな感傷的なマンガ読んじゃイカンなあ(^_^;)。

12月30日(日)
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