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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■平和だねえ。/『蒼い時』『華々しき鼻血』(エドワード・ゴーリー)ほか
同時発売の『華々しき鼻血/The glorious Nosebleed』(河出書房新社・1050円)。
「鼻血」本だけに、今度は装丁も全部赤。青本と赤本の同時発売なんて、凝ってるなあ(^。^)。
表紙に、岩場で鼻血出して卒倒してる男と、そいつを無視して彼方を見つめる二人の男の絵が描かれている。
で、裏表紙には、その鼻血の跡を匂う犬の絵。
実は表題の「鼻血」、この二ページにしか出て来ない。どんなに個人的に大層なデキゴトでも、所詮は犬が舐める程度のことでしかないってことを言いたいのかな(^^)。
本文はゴーリーお得意のアルファベットもの。残念ながらこればっかりは日本語で「あいうえお」に置きかえることは不可能。というわけで、本文紹介はもとのABCの単語も併記します。
A Aimlessly あてどなく こだちを さまよう。
B Balefully まがまがしく こ(子)らにらむ いきもの。
C Clumsily ぞんざいに きょう(供)された プディング。
D Distractedly きもそぞろに ホイスト。
E Endlessly とめどなく あみたる マフラー。
F Fruitlessly いたずらに ちかしつ さがす。
G Giddily くらくらと すなちで おどる。
H Hopelessly やるせなく みつめる まどのそと。
I Inadvertently うかつにも さんばしから おちる。
J Jadedly ものうげに もてあそぶ ビーズ。
K Killingly ばっちりと きめた さんにんむすめ。
L Lewdly わいせつに わがみ をさらす。
M Maniacally らんしん ひろまを かけぬける。
N Numbly ぼうぜんじしつ きしゃのなか。
O Ominously ふきつに よびりん なりひびく。
P Presumably さっするに トランクの なか。
Q Quickly てばやく てばなす。
R Repressively ねちねちと よくあつてきに こごと。
S Slyly ひみつり(秘密裏)に かけら ほうむる。
T Tearfully なきぬれて へやを とびだす。
U Unconvincingly しらじらしく しゃくめい こころみる。
V Vapourously おぼろげに おくじょうに うかぶ。
W Wilfully こい(故意)に くるま ぶつける。
X eXcruciatingly たえがたく うたわれた うた。
Y Yearningly せつなげに みおくる さりゆくひとを。
Z Zealously むがむちゅう なにもかも かきとめる。
わはは。知らない副詞がいっぱいだ。
多分、英語圏でもそうそう使わないような副詞も集めてるんだろうな。
絵がないとなんのことを説明してるのかわからんと言われる方もあろうが、一つ一つの短文自体、相互にまったく脈絡がないので、例えばAさんがどうして木立ちをさ迷ってるのかは全然分らないのである。
町中で、道端で、私たちは誰かとすれ違い、ほんの一瞬だけ見知らぬ人と時間と空間を共有することがある。
それは例えばほんの断片的な会話を聞いたりすることであったり、ちょっとした喜劇的、あるいは悲劇的情景に出くわしたりすることでもある。
喫茶店で、恋人同士の別れ話の現場に、偶然、立ち会った時の至福感を味わった方はおられようか。ここに紹介されている情景は、ちょっと普段出会うことのない、そういう人生の断片集なのだ。
そしてそれを描きとめているのが、“Z”のエドワード・ゴーリー自身というわけ。
訳文については『蒼い時』同様、「もちっとこなれた訳はできんのか」と言いたくなるが、全部はとても触れきれない。
「ぞんざいにきょうされたプディング」なんて日本語じゃねーって(^_^;)。プリンをプディングって発音するやつも私は嫌いだが(^^)、絵はウェイトレスが客に出したプリンがひっくり返ってるところなんだから、「乱暴に出されたプリン」とかでいいんじゃないか。何を気取って「供された」なんてコトバ使わなきゃならんのか(原語は“served”だから間違いじゃないが、こういうところにこそ訳者のセンスが表れるのだ)。
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12月03日(月)
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