ID:10788
無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
[491657hit]
■「懐かしい」だけでも泣けるけど/映画『銀色の髪のアギト』&『ALWAYS 三丁目の夕日』
続けて、天神東宝に移動して、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』を、公開2ヶ月を経てようやく見る。
劇場はほぼ満杯で、本当にロングランヒットしてるんだなあと実感。お客さんに中年、老人の方が目立つのも珍しい。みんなそんなに「懐かしい」が好きか。
ヒットしているからと言って、面白い映画かというと必ずしもそうでもないことは、これまでにも散々経験している。西岸良平の原作マンガは大好きなんだが、マンガの実写映像化で本当に映画として面白いものになっている例なんてのも少ない。だから、正直、期待なんてものは全くしていなかった。
それでも、しげを説得してでも見てみようかなという気になったのは、『少年サンデー』で高橋留美子が「去年見た中で一番面白かった映画」に、この『ALWAYS』を挙げていたからである。高橋留美子に映画鑑賞眼があるかどうか定かではないが、「同じくマンガ家で、自作が実写化された経験のある」者の意見と言うのは貴重だろう、と考えたのだ。
さて、で、見た感想はと言うと、これがちょっと困った出来なのであった。「感動した」「泣ける」という意見が書評でもネット上の感想でも多く見られる理由は分かりはする。何しろ私などはファーストシーン、子供たちが「ゴム飛行機」を飛ばした瞬間からもう泣いていた(笑)。「失ってしまって、もはや取り戻すことの出来ない過去」が多けりゃ多いほど、アレは「泣ける」ようにできているのである。けれどそれがこの映画の「映像としての力」ゆえであるのかどうか、と言うと、そこに疑問符が付かざるを得ないので、「困った出来だ」と言わざるを得ないのである。
昭和33年を象徴するものとして、建設中の東京タワーを持ってきた、これはなかなか面白い発想で、「時代を切り取る」方法としては極めて効果的だ。この映画の中で展開される物語はたった一年間の出来事ではあるが、決して「止まっている時間」ではない。鈴木オート社長(堤真一)に従軍経験があるように、アクマ先生(三浦友和)が空襲で妻子をなくしていたように、戦争の惨禍はまだ人々の記憶に新しいものとして残っていた。しかし同時に、昭和31年の経済白書に書かれていた「もはや戦後ではない」という言葉を居酒屋の客たち(温水洋一・マギー)が呟き、鈴木オートの息子・一平(小清水一揮)が「父ちゃんの戦争の話なんか聞きたくないや」と怒鳴っていたように、未来志向が強まり、急速に過去が忘れ去られようとしていく時代でもあった。日本人が敗戦から立ち直り、高度経済成長に邁進して行こうとする時代の象徴として、「徐々に建設されていく東京タワー」ほど象徴的なものはなかったろう。その「未来志向」の時代は昭和39年の東京オリンピック及び昭和45年の大阪万国博覧会で頂点を極めることになる。公害もオイルショックも低成長時代もバブル崩壊も知らず、「中流意識」すらなく、誰もが「それなりに貧乏」で、だからこそ「明日は良くなる」と信じていた、そういう時代なのである。必ずしもそうではなかったのは皮肉屋の東京人・小林信彦くらいのものであろう(笑)。
しかしそういう時代だからこそ、この映画の描写は極めていびつで、バランスを欠いているのだ。『ALWAYS』というタイトルは、「移り行く時代」を表すタイトルとしては全くふさわしくない。製作者の意図は「時代がどう変わろうとも変わらぬもの」を描くことを目的としているのだろうが、実際に描かれたものは「既に失われたもの」のオンパレードなのである。しかもその「時代の要素」取捨選択はかなり「いい加減」だと言っていい。
[5]続きを読む
01月08日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る