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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■さよなら本田美奈子.さん/『あたしンち』11巻(けらえいこ)
前巻から引いた「決戦、ケロロ小隊24時」編も、あっさり過ぎるくらいに決着が付いて、また、まったりした「オバケのQ太郎SF風味」みたいな展開に戻っちゃった。
新キャラの月神散世(つきがみちるよ。かぐや姫かワーウルフかい)、冬樹に恋する桃華のライバルなわけだが、イカニモなメガネっ娘キャラで、11巻も経ってわざわざ出さなきゃならないキャラでもないんじゃないかという気はするが、これもまた「終わりどころを逸した」マンガの一つなんで、あまり文句を付けるのも酷というものだろう。
劇場映画は見に行くかどうかはまたせ分からない。『ゾロリ』と併映ってのはなかなかオイシイカップリングだし、子供向けじゃん、と思っていた映画が、劇場版になった途端に出来がグンとよくなるのは『クレヨンしんちゃん』とか『デジモン』などで証明済みだから、ちょっと期待はしてるんだが。
マンガ、けらえいこ『あたしンち』11巻(メディアファクトリー)。
表紙はユズヒコ。と、これで家族四人、めでたく表紙を飾ったわけであるが、次はまた母さんに戻るのであろうか。
家族の日常マンガで、まったりマンガで、『サザエさん』から風刺部分を抜いた実に毒のない、およそオタクがファンに付くマンガでは全くないのであるが、こういうマンガが日本のマンガシーンの裾野にあって、マンガ読者を支えているのであるから、単に好きなマンガだけを読んでいたいというだけでなくて、もちっとマンガ文化のありよう全体について考えていきたいと考えている人たちにとっては決して無視はできないマンガなのである。
まったりマンガと書きはしたが、けらさんのキャラクター造形力、これは尋常でないくらいに優れている。タチバナ家の人々はもちろん、名もなきサブキャラのディテールに至るまでけらさんの人間観察眼は細かく行き届いて描写されており、一人一人が実に個性的である。マンガの持っている「カリカチュア」の特性を最大級に生かしていて、それでいて読者にリアルさを感じさせるという、とてつもなく優れた技術の上にこのマンガは成立しているのである。練達の技、と言っていい。
例えば、ユズヒコのクラスで、『いつでも泣ける』(笑)というベストセラー本が流行っていて、みんなが読んで泣いている、というエピソード。ところが川島さんは読んでも泣けない。ユズヒコのことを好きだけれども言い出せないくらいに気弱な川島さんだから、周りに付和雷同して「すごいいい本!」と賛同してしまう。でもクラスの中でもマイペースな石田さんは、読んでも「泣けなかった」とあっさり言ってしまう。リアルだと言うのは、この子が、「自分だけは見方が違うぞ」という特権意識で「泣けない」と主張するのではなく、全く自然にそう口にするところである。さらには、ユズヒコが「えーっ? これって犬じゃなくて飼い主が死ぬんだ!?」と大勘違いをしてのける。おかげでみんな涙が引いてしまうのだが、「キャラクター造形力が凄い」というのは、こういうちょっと暢気なユズヒコが、実はクラスの中でも「密かにモテている」ということで、しかもその事実にユズヒコ本人は全く気が付いていないという点なのである。無精ひげが生えると姉のみかんから「ハムスターみたい」と言われてしまうようなちょっと冴えないご面相であるのだが、だからこそ、女の子からはモテているのだ。
『電車男』がブームになったおかげで、全国のモテナイくんはモテるための手段を模索するようになったようであるが、一番モテるタイプの男の子というのは、実はユズヒコのような心に焦りのない、暢気なようでいて実は一本芯の通っている「男」ではないだろうか。まだ恋に目覚めていないというのも、高校生の時点ではポイント高し。
逆に「思考ただもれ男」の藤野はモテないのである(笑)。いるよ、こういうやつ。
ついでに言えば、男の子から普通にモテるタイプは藤野さんで、マニア受けは石田さんである。川島さんはずっとユズヒコに片思いであるが、残念ながら態度が中途半端なのでモテない。やっぱり自分で一人「立っている」女性が、憧れの対象となるのですよ。
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11月06日(日)
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