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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■何かを得た後で/『怪盗紳士ルパン』(モーリス・ルブラン)
 まあこの「電車男」が実在するのかしないのかという「真贋論争」には興味がないが、この物語の流れが「作りものっぽい」のは事実で、それを言えば『セカチュー』も『イマアイ』も、「こんな安っぽいドラマで涙できるなんて、今の若手連中は何てオキラクになってしまったんだ」って点では『電車男』と話は共通している。せめてさあ、「オタクがなぜ気持ち悪いのか、けれどそのことを自覚しつつもなぜこのオタクに惹かれてしまうのか」という視点がなきゃ、ドラマとしては成立しないんじゃないかと思うが、結局映画版もテレビ版も、そこんとこには突っ込まなかったからね。しずかちゃんがのび太のことをなぜ好きになるのか分からないように(笑)、「エルメスは天然だからオタクでも平気」とでも考えない限り納得ができないのである。
 だからそのへんのキモオタ諸君、「自分にもいつかはエルメスみたいな人が」なんて幻想は絶対に抱かないようにね。君は一生、女性と縁はありません。そう覚悟しなさいよ。そこからしか実は道は開けてはいかないんだから。


 読んだ本、モーリス・ルブラン『怪盗紳士ルパン』(ハヤカワ文庫)。
 映画『ルパン』の公開に合わせた新訳である。しかもハヤカワミステリ文庫初収録。30代、40代のルパンファンの多くは、ポプラ社版の南洋一郎訳『怪盗ルパン全集』でこのシリーズに親しんでいたと思うが、正直な話、あのシリーズはモーリス・ルブランの原作に依拠した「翻案」と言った方がよくて、のちに偕成社から出された完訳シリーズと比べると、まるで別物というしかないものだった。
 ポプラ社版の中には、ボアロー&ナルスジャックによる続編シリーズや、南洋一郎が勝手に書いた『ピラミッドの秘密』なんてのまであって、そのくせ、ルブラン最後の長編『ルパン最後の事件(アルセーヌ・ルパンの数十億)』は収録されていないという、ルパンを知らない若いファンにその世界を味わってもらうには甚だ不出来な代物であった。じゃあ偕成社版の方がいいかと言うと、へんに装丁に凝ったものだから、いささか「かさばる」印象があるのである。新潮文庫は既に訳が古臭くなってしまっているし、やはり全シリーズを収録してはいない。文庫で入手しやすいシリーズが出ないものかなと思い続けていたのだが、ようやくハヤカワが重い腰を上げてくれたというわけだ。
 『ルパン』シリーズの真髄を味わうには、同時発売の『カリオストロ伯爵夫人』よりも、こちらの最初期の短編週の方が初心者には適当だと思う。今回読み直してみて、そのトリックが後の他作家によってパクリにパクられているにもかかわらず、叙述の妙によって、いささかも古びていないことに驚いたのである。
 ああ、トリックバラすことになるので書けないんだけれども、この「ルパン」シリーズも、トリックとして優れているのは、作品中のルパンが仕掛けるトリックの方じゃなくて、モーリス・ルブランの「筆」なんだよなあ。それを忘れて中身だけパクっても、「ルパン」シリーズの真髄は決して味わえないんである。

 
 マンガ、とり・みき『クルクルくりん』1巻(ハヤカワ文庫)。
 ハヤカワ文庫のSFマンガ復刊シリーズ、『るんるんカンパニー』より先にこっちが出た。まあ、売れ線考えたら当然そうなるのかもしれないけれど、そのワリには表紙の描き下ろしくりんが全然可愛くないのはどうしたものかね。
 まあ、私が『くりん』を買うのもこれで三度目なわけで、その三種類を全部比較できることにもなるのだが、基本的に原稿自体は2度目の刊行のときに「あまりにも下手な絵を描き直した」ものを踏襲している。どうやら「3度目の描き直し」はやらなかったようだ。これ、やりだすと際限がなくなっちゃうからね。同時に2度目のときにやった「現代だと分からなくなっているギャグ解説」はすべて削除して新作イラストに変更。これも解説したこと自体がもう次の世代には分からなくなるという悪循環に陥るので止めたんだろう。若い人にはもう分かんないところは勝手に想像しちゃってください、ということである。これもキリがないしね。

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09月22日(木)
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