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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■負けるな小林雅文!/映画『ノロイ』
 もちろん、「小林」も最初の取材はまだまだおとなしめである。とある主婦からの「隣の家からいないはずの赤ん坊の泣き声が聞こえる」という投書で、「小林」は件の家を訪ねるのだが、その家に住む女・石井潤子は、「なんでそんな言い方ができるんだよ!」と意味不明なことをわめき散らすばかりである。このときは「小林」はあっさりと引き下がるのだが、この時のビデオテープに、奇妙なノイズが収録されていたことから、「小林」は不屈の闘志を持って事件の解明に取り組んで行くことになるのだ。石井潤子はこの直後にいずこかへ引っ越し、なんと取材した主婦と娘さんが事故で亡くなってしまうのだが、普通のレポーターならこの時点で怖がって取材を諦めるところだ。ところが我らが「小林雅文」は決してくじけない。
 全く事件とは関係ないと思われた超能力少女が透視した奇妙な顔の映像、心霊番組に出演した「霊能力者」の呟いた謎の言葉、アンガールズと松本まりかが心霊スポットを取材したときに映っていた白い子供のような影。一つ一つの現象が絡み合って、大きな幹を作り上げていく様子を「小林雅文」は臆することなく追っていく。「小林」の行くところ、呪殺されたとしか思えない死体が山積みされていくが、「小林」はあたかも“自分にだけは呪いがかからないと確信しているかのように”取材を続けていく。不法侵入も平気の平左、向かうところ敵なしである。いったいその自信はどこからくるんだ「小林」! つか、取材する前に警察にちゃんと通報しろ! お前は名探偵コナンか!
 「危険から守るため」と称して松本まりかを自宅にかくまったりしてるが、プロダクションとマネージャーがよくそんなこと許したものだ。まさか黙って匿った? もしそうなら「小林」が誘拐犯である。
「小林」はようやく全ての謎を解く「禍具魂(かぐたば)」という言葉にたどり着いて、かつてダムの底に沈んだ「下鹿毛村」で行われていたという「鬼祭(きまつり)」の存在を知る。そしてその祭りで最後に巫女を務めていたのが石井潤子だったのだ……。
 「小林」(及びカメラマン)の何が立派かと言って、たとえどんなに自分に危険が迫ったときであっても、決してビデオカメラから手を放さないことである。おかげで決定的瞬間の映像がどれだけ撮れたことか。超能力少女がポルターガイスト現象を起こしたときなんか、よくぞその瞬間に居合わせたものだと、その運のよさには拍手を送ってあげたいほどだ。ついうっかり、カメラを落としてしまったときでさえ、カメラは「絶好の角度で」「絶妙の位置に」落ちて、やはり決定的な瞬間を撮り逃さない。
 きっと「かぐたば」さんは自分を撮ってくれる人が現れるのをずっと待っていたのであろう。だから最後まで「記録者」である「小林」は殺されることがないのだ。……私を見て! 私を撮って! ってなもんですかね。おちゃめさんね、カグタバっちって。

 もちろんこの「映画」は、ドキュメンタリータッチを装ってはいるが、全てフィクションである。
 当然そのことを知った上で、「らしさ」と「わざとらしさ」の「あわい」を楽しむためのもので、パンフレットにも書いてあったことだが、「モンドフィルム」の流れにあるものである。
 スタッフは実に凝り性で、「小林雅文」が実在していてもう何年も前から活動していたかのようにホームページを立ち上げ、架空の出版社まで存在しているかのように見せかけている。もちろん、内容をよく読めば「これはフェイクですよ」という印はちゃんと示されているので、そこに突っ込む楽しみがちゃんと提供されている。
 映画本編も、たとえ事前情報を全く知らない人が見ても三分でこれは「本物らしく見せかけたフィクション」であることがちゃんと分かるように仕立てられている。ドキュメンタリーならモザイクかけるはずのところに一切そういうのがないもんな。だからこれは決して「ホラー映画」などではなくて、「ホラー映画仕立てのお笑い番組」なのである。

 だからまあ、私は、まさかこの映画を見て、「このお話は本当にあったことなのかどうか?」なんて迷って怖がる手合いが存在しようとは思いもよらなかったのだ。

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09月02日(金)
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