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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■「優勝」の意味はどこに帰属するのか/『アニメーション監督 原恵一』(浜野保樹編)
原恵一監督へのロング・インタビューに始まり、監督の担当した絵コンテ、樋口真嗣・荒井晴彦・田口ランディ・五十嵐太郎各氏のエッセイ、矢島晶子・湯浅政明・茂木仁史各スタッフ・キャストのインタビュー、曽利文彦・中島かずき・中島信也各氏へのインタビュー、海外からのレポートなど、様々な角度から「原恵一」の映画監督としての能力を照射するための記事をこれでもかってくらいにぶちこんでいる。
浜野さん自身、原監督との直接対談や評論の中で、小津安二郎、木下恵介の系譜の末裔として原監督を捕らえ、『クレヨンしんちゃん』前期の監督である本郷みつる監督のSF嗜好・ファンタジー嗜好と対極にある「日常性」を追求する原監督の映画の特徴を高く評価している。
けれどもまあ、昔からのしんちゃんファンにとってはそんなことはもう今更言わずもがなの自明のことなので、このあたりの熱い語りにも、浜野さんの後追いの焦りが感じられて、ちょっと微笑ましくなる。
浜野さんが、執拗なほどに食い下がって聞き出した原監督の「好きな映画」。
デヴィッド・リーン『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』『旅情』
木下恵介『二十四の瞳』『喜びも悲しみも幾年月』『野菊の如き君なりき』『永遠の人』『楢山節考』『笛吹川』
小津安二郎『秋刀魚の味』『東京物語』『麦秋』
タルコフスキー『ノスタルジア』『ストーカー』
ヘルツォーク『フィッツカラルド』
塩田明彦『どこまでもいこう』
井筒和幸『岸和田少年愚連隊』
山本政志『ロビンソンの庭』
チャウ・シンチー『少林サッカー』
沖浦啓之『人狼』
湯浅政明『マインド・ゲーム』
宮崎駿『風の谷のナウシカ』
杉井ギサブロー『銀河鉄道の夜』。
何年か前、ある作家さんとメールをやり取りしていたときに、その方が「原監督は昔の映画はあまり見てないと思う」とか、どういう根拠でモノを言っているのかよく分からないが、かなり乱暴な書き方で決め付けていたことを思い出した。このリストを見るだけでも、それがただの思い込みに過ぎないことがお分かりいただけると思う。
当然、どんなに実力のある映画監督でも、無から有を生み出すことはできない。影響を与えた先行作というのは常にあるのだ。このリストを見て、その「趣味のよさ」が原作品を「映画」にしているのだという事実を感じ取っていただければ幸いである。
原監督の次回作はもう『しんちゃん』ではない。矢島晶子さんなどは原監督に再び戻ってきてほしいと対談で懇願していたが(そりゃ、今年の『三分ポッキリ』なんてヘボ映画に出演させられてちゃ、嬉しくはないだろう)、未だに「しんちゃんなのに」と言いたがるエセ評論家が跋扈している状況に足元を掬われない、自由な環境で作られた原監督の新作を見てみたいものじゃないか。
ああ、それから、本書中でも批判されてたけど、『オトナ帝国』や『戦国大合戦』がオトナに受けたからと言って、やっかむように「子供は退屈していた」とか反作用的にワルクチいうのは止めようね。これも「馬鹿批評」の典型で、大人が映画を見て賛否両論に分かれるように、子供だって、感想は二つに分かれるのである。全ての子供を満足させる映画なんてありゃしないし、私が劇場で見る限り、『オトナ』も『戦国』も、子供にだってちゃんと受けてたよ。たまたま自分の近くにいた子供がアクビをしていたからって、それで全てが図れるわきゃないのであるよ。
08月22日(月)
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