ID:10788
無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
[491659hit]
■石井輝男監督、死去/『月館の殺人』上巻(綾辻行人・佐々木倫子)
多分、8時になったかならないかくらいのころで、寝が浅かったのか、2、3時間ほどで目が覚める。『エンタの神様』をやっていたが、波田陽区やレギュラーが既にあまり面白くなく、出演時間もかなり削られている。売れたのがそもそも間違いみたいな芸とも言えない芸ばかりだから、もちっとネタを磨くなり新しい切り口を考えるなりしないと、「世間の予測どおりに」早晩消えちゃうぞ。
マンガ、綾辻行人原作・佐々木倫子漫画『月館の殺人』上巻(小学館)。
話題のコラボレーション作品が、既連載分が一冊に達した時点ですぐの単行本化。待ち望まれてたのがよく分かる。
連載第一回の「IKKI」の表紙を見たときには、その意外な組み合わせにちょっと驚いたものだったが、考えてみれば佐々木さんは、『動物の御医者さん』以前には『ペパミント・スパイ』や『忘却』シリーズの中で、何作もミステリーマンガを描いていたのである。『動物の御医者さん』の中でも、漆原教授が持っていた写真の女は誰かとか、日常の中で起きた「謎」を追う話がいくつかあった。
のほほんとした作風で、真相も「な〜んだ」という落とし話に近い形の解決が図られることが多かったので、血なまぐさく理屈っぽい印象のミステリとはどうにもイメージが結びつかなかったのだが、紛れもなく佐々木さんはデビューのころから「ミステリマンガ家」であったのである。今回はまさに「原点」に戻った作品と言えるだろう。
雁ヶ谷空海(かりがや・そらみ)は沖縄に住む17歳の女子高生。
しかし彼女はこれまで沖縄から一歩も外に出たことがない。修学旅行に行ったこともない。彼女の母が異常なほどの「電車嫌い」で、電車に乗ることを許さなかったからである。
そんな母が亡くなって2ヶ月、天涯孤独の身となった彼女のもとに、母方の祖父の代理人として、弁護士がやってくる。祖父は「高名な人物」で、財産相続の話をするためにも祖父は空海に会いたがっているというのだ。
まだ見ぬ祖父に会うために、空海は北海道の地に立った。そして、「月館」行きの夜行列車「幻夜」に乗り込む。それは輸入されたあの「オリエント急行」だった。祖父への思いに心を弾ませる空海。
しかし、一緒に乗り合わせた乗客たちは「コレクション・テツ」「撮りテツ」「乗りテツ」「時刻表テツ」「模型テツ」「鉄道考古学テツ」……みんな揃って「鉄道オタク」であった!
そして雪に閉ざされた列車の中で新たな「オリエント急行殺人事件」の幕が上がる……。
冗談みたいな設定が、既にミステリーであるが、まあ、この空海の祖父というのが相当な「鉄ちゃん」であることはまず間違いのないことだろう。空海の母が極端な鉄道嫌いになったのも、「パイロット」である空海の父と駆け落ちしたのも、娘に「空」「海」と、「陸」を外した名前を付けたのも、みんな父親への反発だと思われる。
けれど見当が付くのはそれくらいで、肝心の「密室殺人事件」、犯人もトリックも全然分からない。いや、素直に考えれば事件の裏には祖父が仕掛け人としているんだろうとか、殺人事件に見せかけてるけど実は死んでないんじゃないかとか、いろいろ考えることはできるのだけれど、どうにも推理をする気になれないのね。あの「佐々木さんののほほんとした雰囲気」のせいで。
つまり、殺人を描いているにもかかわらず(血まみれの死体すら出てくるというのに)、全然、血なまぐさくないし緊迫感もないのだ。登場人物もみな「佐々木ワールド」の住人で、全く犯罪者には見えない。
殺人が起こったというのに、乗客のテツどもは自分のシュミのことにしか興味がない。小説ならこれはなかなか非人情の世界で殺伐とした空気が漂うものなのだが、これが佐々木さんの筆にかかると実に場面が和んでしまう。だいたい主人公の空海自身が、「密室」と聞いて、「ひも」を使ったトリックを想像して、そのひもにはなぜかマクラが「意味もなく」結び付けられたりしているのである。これ、『本陣殺人事件』のパロディなんだろうなあ。
[5]続きを読む
08月13日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る