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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■夢の中の人/『ムーミンのふたつの顔』(冨原眞弓)
 我々もこれまでたくさんの事件を見てきて、事件の全体を詳細にレポートした本なども何十冊も読んできている。だから、犯人が供述する内容が実はきわめて多岐に渡っていることも、テレビや新聞で報道されるのはその中のほんの一部に過ぎないことも、充分知っているのだ。情報の取捨選択の基準となるのは、それがどれほどキャッチーか、悪く言えば扇情的な効果があるかってことに限られていて、「真実を報道する」なんてことをマスコミはこれっぽっちも考えちゃいない。
 犯人の変態性欲が乱歩の小説だけで喚起されたわけではないことは明らかである。しかし、テレビは、マスコミは、常に犯罪の原因が犯人以外のどこかにあるように演出する。いい加減で、「そういう演出こそが事件を単純化し、原因究明を阻害する原因になっている」ことに気付いたらどうなんだ、とマトモな神経の持ち主は誰もが言ってることだ。なのに、マスコミは日本で一番馬鹿な連中が集まるところだからそんな批判にはキョトンとするばかりで、今後も改善の余地はまるで見込めない。
 まあ、乱歩は今更この程度の横ヤリで消されてしまうようなヤワな作家ではない。かえってこれが宣伝になって、全集の売り上げが伸びてくれればいいくらいのものである。乱歩に興奮してまたぞろ犯罪に走るやつが出るんじゃないかと心配の方々にはこう言っておこう。そういう変態は生来のものだから、乱歩を読まなくてもやっぱり必ず犯罪に走るのである。かえって影響を受けて「早めに目覚める」から、早期発見、犠牲者が少なくてすむくらいだ。
 今回の事件で問題になるのは、既に犯人に犯罪歴があり、その性癖が早期発見されていたにもかかわらず、示談だの執行猶予だの微罪だのってことで簡単に社会復帰させた法制度の不備と、こういう変態をぶち込んどく施設を建設しない行政の怠慢と、そもそもこいつがどうしようもない変態だと知っていて放置しといた親の罪だ。なんで早いとこ首締めて殺しておかないかなあ。
 気になるのはねー、こいつ、自殺志願者を殺したわけだからうまい弁護士に当たっちゃったら殺人じゃなくて自殺幇助かなんかになっちゃってまた社会復帰したりしやしないかということなんでねー、さすがにそれはないと信じたいんだけれども、もう何が起こったっておかしかない世の中だからね、ぜひとも検察官のみなさんには頑張ってこういう変態は早めに死刑にもってってほしいのである。


 冨原眞弓『ムーミンのふたつの顔』(筑摩書房)。
 筑摩なら、いつか文庫になるだろうから、それを待ってもよかったかと思うがつい買ってしまった。ムーミンファンも長いと、ちょっとでも目新しい本が出るとつい買ってしまうのである。
 『ムーミン・コミックス』の翻訳のほか、ムーミンシリーズに深く関わった著者による「ムーミン概観」というべき本で、単に作品の紹介に留まることなく、作者のトーベ&ラルス・ヤンソンの小史も付し、世界でのムーミン受容史も可能な限り紹介しており、文化史的にムーミンをどう捉えればよいかを考察するためのよすがとして、非常にうまくまとまっていると言える。
 もちろん、一冊の本にムーミン史をまとめることなど容易なことではないので、物足りなさを覚える面はある。アニメからムーミンに入った世代としては、日本では絶大な人気を誇る「スナフキン」の造形に深く携わった監督の大隅正秋(現・おおすみ正秋。言わずと知れた『ルパン三世』第一シリーズの監督でもある)の名が全く出てこないのが残念でならない(アニメシリーズの流れを概観はしている)。引き合いに出されている『となりのトトロ』(もちろん、「トトロ」の語源となった「トロール」は、「ムーミントロール」のそれと同じものだ)の宮崎駿の名前は出しているのに。
 けれども、逆に「アニメのムーミンしか知らない」日本のファンにとっては、ムーミンが「様々なふたつの顔」を持っていることに驚かされる内容になっている。以前、日記に書いたことがあるが、アニメしか見たことがない人が小説に「ノンノン」が出てこないことに驚いたということがあるのだ(原作ではあくまで「スノークのおじょうさん」である)。

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08月11日(木)
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