ID:10788
無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
[491661hit]
■ああ、勘違い/『海野十三敗戦日記』(海野十三著・橋本哲男編)
でも私の場合、記憶を辿ってみても、そんなに面白い思い間違いをしていたという経験がないのである(聞き違えてもすぐに自分の間違いに気付くか、単に意味が分からないままでいるかのどちらかだ)。多分、分からないコトバがあったら、すぐに親とかに聞いていたからだろう。
マンガ、天樹征丸原作・さとうふみや漫画『探偵学園Q』21巻(講談社)。
ついにあと一巻で完結。最終エピソードとなる『棲龍館殺人事件』(「館モノ」だよ!)は今巻では終わらずに、次巻まで持ち越しである。作者としては質・量ともに力を込めて、華麗なるフィナーレを、という趣向なのであろう。
けれども作者の意図に反して、本作に対して世のミステリファンの大多数が「ふざけんな早く終われ」と目ん玉ひん剥いて怒り狂っていたであろうことは想像に難くない。ともかくパクリや稚拙なエピソードが多すぎたからね(あまりにツマラン話はアニメ化の際、修正されまでしてたものなあ)。
けれども私は、前作『金田一』ほどには嫌いではなかったのである。これは最初からあまりキッチリした本格ミステリは目指してなかったからね。
だから、わざとらしいくらいにリュウが犯人に仕立てられようとしていても、「密室」と並んで必然性を持たせることにかなり苦労する「見立て殺人」を持ち出してきても、あまりメクジラ立てずにすんなり読んでいるのである。
しかしまあ、面倒くさい見立て殺人を考えたもんだ。「龍生九子」? 「饕餮(とうてつ)」くらいは諸星大二郎の『孔子暗黒伝』で知ってたが、ほかのは全然知らなかった。「贔屓(ひいき)」って龍の名前だったのかよ。だったらこれが龍の名前からどうして「目をかけてやること」って意味になったのか、そこまで説明してくれたらよかったのに。まあ本筋とは関係ないんだろうけれど、ミステリに無意味なペダントリーは憑き物、ああいや、付き物だから。
海野十三著・橋本哲男編『海野十三敗戦日記』(中公文庫)。
まさかこれが文庫化されようとは思いもよらなかった。本屋で見つけたときには、本気で目を疑った。おかげで、購入したものかどうか、一瞬、迷ってしまったほどである。
それだけ興奮してしまったのは、海野十三(うんの・じゅうざ)という名前に対する思い入れがかなり強いからである。どういうことかと説明し始めたら、もうこれは今日の日記が書ききれないので、もう無理に無理をして、箇条書きでまとめてしまおう。
・海野十三は、戦前・戦後にかけて活躍した探偵小説家、空想科学小説家である。「日本SF小説の父」と呼ばれる。星新一、小松左京、筒井康隆、手塚治虫、藤子・F・不二雄ほか、影響を受けた作家、マンガ家は数知れず。
・数多くの少年小説、科学読物を著し、当時の少年少女たちに雄大な夢と科学的合理主義を啓蒙した。しかし同時に積極的に戦争協力し、戦意高揚小説も多数著していた。
・敗戦後、自らの責任を感じ、自殺まで決意する。しかし「生命ある限り科学技術の普及と科学小説の振興に最後の努力を払う」ことを決意し、なお四年を生きた(病没)。それほどに清廉な人であった。
・代表作に、『深夜の市長』『地球盗難』『火星兵団』『浮かぶ飛行島』『名探偵帆村荘六シリーズ』など。
本書はその海野十三の昭和19年『空襲都日記』と同20年『降伏日記』を併せ収録したものである。敗戦のナマの記録としての価値があるだけではない。海野十三が「清廉の人」であることも忘れてはならない。
日本が未曾有の危機に晒されているときに、国を愛する心があれば積極的に戦争協力することも当然ありうる。平和ボケした現代の視点でただやみくもに当時の日本人を十把一絡げに愚かであったと断定するのは決して正しい判断だとは言えない。海野十三は日本の戦略の杜撰さ、防衛力の貧弱さ、軍部の非合理な精神主義、そして敵国の科学技術の進歩も原子爆弾の存在も正確に理解していた。そんな状況を作家として少しでも打開しようとして、科学小説の執筆に打ち込んだ。
[5]続きを読む
08月05日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る