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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■映画とマンガの感想だけで手一杯/映画『50回目のファースト・キス』
映画『シックス・センス』よりもずっと早く、ホラーとミステリーをずっと洗練された形で(しかもユーモアすら交えながら)描いてきたシリーズの最新巻。
要するに主人公の飯嶋律がオスメント少年に当たるわけだが、相変わらずイマイチ頼りにならない。もしかしたら読者の人気は26年ぶりに異界から帰ってきた律のおじ・開の方が高いのかも知れない。多分、律よりも「力」は強いだろうと思われるのだが、律の危難に対して、あまり協力的でないどころか、状況が悪化するのを面白がって見ている気配すらある。
もともとこの物語の設定自体が必ずしも人間中心主義・勧善懲悪主義では描かれておらず、何の罪とがのない人間だって、禁忌に触れて死ぬこともあるし、魅力的なキャラクターやかよわい女子供があっさりというか時には残酷に退場させられることもままある。共通点も多い『蟲師』と比べても、かなり作者の現実を見る目が冷徹であることが垣間見えるのである。
そんな中で右往左往する律や、霊感あるのに自覚症状のない天然娘の従姉・司、律の祖父・蝸牛の使い魔だった妖魔・青嵐や、飯嶋家の庭の桜に宿っている律の家来の妖魔・尾白と尾黒なんて「お笑い」キャラたちが中心になっているから暗いムードにならずにすんでいるものの、そうでなけりゃ、このシリーズ、結構陰惨な山岸凉子的世界になっていたかもしれない。まさに恐怖と笑いは紙一重か。
今巻は、先述した開の見合い相手の家・白川家に巣食う妖魔たちの攻防を描く『夜半の客』、晴れ着に取り憑いた妖魔の除霊と青嵐の「分裂」というショッキングな事件が起こる『晴れ着』、「生きた細工物」を作る青年・三郎と、律のもう一人の従姉・晶との恋の行方を追う『月影の庭』『餓鬼田の守り神』を収める。
時間経過こそあるものの、まったりまったりとたいした状況の変化もなく進んでいくかと思われていたのに、初めて見つかった青嵐の「本体」(鏡の精だったんだねえ)がいきなり割れちまうわ(だから律は妖魔から身を守る術を一時的にせよ失っているのだが、あまりに狼狽するものだから、まるで悲惨な雰囲気にならない)、三郎はどうやら次巻あたりで完全に「あっち」の世界に行っちゃいそうだわ、作者はシリーズの完結も視野に入れつつあるような感じである。
ホラーミステリーの教科書と言ってよいようなハイレベルの作品も多いから、もっと続いてほしい気もするのだが、15、6巻くらいが限度かなあ。
07月23日(土)
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