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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■「ひっ(ざ)びきー、呼ーび♪」/映画『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』
 いやね、オープニングには思い切り期待させられましたよ。いきなり始まったかわいらしく昔懐かしい『小さな妖精』の人形アニメーション。あれ? アタマに別の短編がくっついてるのかな? と思わせといて、突然、画面がびりびりと裂けて、「これは、こんな楽しいお話ではありません」と来る。どんなに「不幸せ」な物語が展開されるのだろう、とワクワクしたのだが、続くナレーションのジュード・ロウ、これが語りにまるで軽快なところ、ブラックな味わいがなくって、一気にトーンダウンしてしまう。こういう詐欺師的な語り手を演じるのなら、それらしい雰囲気を出してもらいたいものだ。吹替版の松本保典はどんな調子だったのかな?
 本編の物語がまた、面白くなりそうでそうならない不完全燃焼。ヴァイオレット(エミリー・ブラウニング)、クラウス(リアム・エイケン。『ロード・トゥ・パーディション』の“あの子”だ!)、サニー(カラ&シェルビー・ホフマン)のボードレール家の三人姉弟を襲う不幸の数々が、どうにも観客の身に迫ってこないのだ。
 三姉弟の両親は家屋敷ともども焼け死に、引き取られた先のオラフ伯爵(ジム・キャリー)はボードレール家の財産を狙って、あの手この手で師弟たちを抹殺しようとする。慌てた弁護士ポー(ティモシー・スポール)に他家に預けられるけれども、彼らもまた次々に謎の死を遂げて……っても犯人はオラフ伯爵だってバレバレなのだが、そこはもうこういうナンセンス・ブラック・ユーモア・ミステリーの定番なので、それをどううまく見せるかが脚本家と演出家と役者の腕の見せどころだろう。ところがこれが、残念なことに今ひとつ、いや、今三つくらいにへにょへにょと冴えないのである。
 まあそれはもともとの原作が基本アイデアはいいものの、今一歩のところで「詰めが甘い」点にも原因はあるのだが、次々と子供たちを危険な目に合わせるのはいいのだが、それを切り抜けるアイデアがあるときは荒唐無稽、あるときは無理がある、あるときは偶然に頼りすぎると欠点が目に付き、なかなかカタルシスを得られないのである。かてて加えて、ジム・キャリーの過剰な演技が、面白さよりも一人よがりを感じさせてうまくない。
 『キネ旬』で立川志らく師匠が「不幸な映画なら木下恵介の『日本の悲劇』の方がよっぽど不幸だぞ」と書いていたが、もちろんこの『不幸せな物語』は本気で不幸を描こうとしたわけではない。不幸を様々なアイデアで乗り越える子供たちの機知の面白さをこそ楽しみたい映画である。しかしそのためは子供たちに降りかかる不幸は本気で恐ろしいほどの不幸でなければならないのに、そこからして「甘い」ことに対して志らく師匠は皮肉を投げかけているのである。
 それにしても、こないだの『ステップフォード・ワイフ』のグレン・クローズもそうだったけれど、メリル・ストリープやキャスリン・オハラといった名女優たち、コメディとなるとどうして押さえが利かなくなって臭くなるのかなあ。コメディアンにシリアス演技は出来るけれども、その逆はムリって風評、ホントだってことになっちゃうよ?(もっともキャスリン・オハラはコメディアン出身だから、コツを忘れたものか)
 演技者で一番よかったのが、“殆ど何もしていない”カメオ出演(しかもノン・クレジット!)のダスティン・ホフマンってのはどういうわけかね(ジム・キャリーの演技を見ながら、一言「最悪」と言うだけ。まことにその通り!)。
 まあ、主人公の三人師弟がかわいかったのと(『ハリー・ポッター』三人組ほどの魅力には欠けるのが痛いが)、オープニングの人形アニメーションとエンディングの切り絵アニメーション(影絵って書いてる批評がネットにあったけど、影絵と切り絵は違うよ)が素晴らしかったので、一応は及第点の出来とは言えようか。全編をラストの切り絵アニメーションで作っていたら、こりゃもう、とんでもない大傑作になっていたことは確実である。まあ、アニメだけならもう100点満点で、これだけのためにDVDを買ってもいいくらいである。アニメファンなら必見。

05月08日(日)
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