ID:10788
無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
[491673hit]
■じじじじじじじじ地震!(追加アリ)
時間にすれば一分ほども経っていないだろうが、揺れが一段落したな、と思われるころ、隣室からしげの私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。続けて「助けて〜」という気の抜けた声も。その気の抜け具合から、とりあえず悲惨な状況になっていないことは分かったが、部屋の中は完全に足の踏み場をなくしている。私の体の上にもビデオと本の山が積み重なっていて、すぐには動けない。腹のところから足元にかけての本を脇にどけて、足を引き出してようやく立ち上がれる。隣室に行く道はCDがかなり落ちているので、これを踏まないように横に積み重ねていく。ほんの少しだけ隙間を作って、足を差し込み、隣室を覗いたら、やはりしげは本の布団を着て顔だけがその間に見えている。
「何でオレ、こんな格好で寝とるとー? 横向いて寝てたはずなのに、上向いてこんな格好してるー」
どうも地震が起こった瞬間はまだ寝ぼけていて、無意識のうちに崩れてくる山をよけながら、それでもよけきれずに山の中に埋まってしまったものらしい。「動けんー、重いー」と唸っているが、泣いてはいないのでひどいケガはしていないようだ。「今助けてやるからちょっと待て」と声をかけて、本をどけながらなんとかしげの頭の後ろに回る。それからさっき自分が抜け出したのと同じ要領でしげの体の上の本を脇にどけていく。「立てるか?」と聞くが、しげは「足に力が入らーん」と寝惚けた声で答える。睡眠薬もまだ効いているので、実際、足が痺れたままなのだろう。「足に力入れなくていい。ケツを引け。引き出してやるから」と言いながら、しげの体を上に引き上げる。尻でずずっ、ずずっと後ろにずりながら、ようやくしげも山の中から抜け出した。
しげにもようやく地震でこんな目にあったのだということが自覚できたようだが、地震の被害がどうかということよりも、眠りを妨げられたことのほうが腹立ちの種であるようで、「寝た気がせん」「夜まで寝れんと?」とぶつくさと文句を言う。あまつさえ、「地震が『響鬼』のあとでよかったね。『響鬼』の最中だったら番組が中止になってたよね」なんてことを言う。その気持ちも分からんではないが、真っ先に心配あるいは安心することはそれじゃなかろう。しげは日頃は“痛い”オタク嫌いを標榜しているのだが、こういう非常識なところは痛いオタクそのものである。覗く気になれんが、あっちこっちのオタクサイト、しげと同じようなこと言いまくってんだろうなあ。
外は救急車のサイレンが喧しいが、こちらはようやく落ち着いてきたので、一息ついてテレビを点けてみることにする。
地震発生は午前10時53分、マグニチュード7.0で、福岡での震度は5から6。津波注意報も発令されていた。天神での地震が起きた瞬間の映像ももう流れていたが、福ビルの被害が一番ひどく、窓ガラスが一斉に割れて街路に降り注いでいる。休日だし路上にいた人も結構いたはずで、破片を浴びてしまった人もいたのではなかろうか。
最もひどい被害を受けた地域はどうやら玄海島のようで、ヘリコプターからの映像では、崖崩れを起こし、全壊している家屋は一つや二つではない。未だ救助の手が差し伸べられている様子も見えず、死者が出てはいないか心配である。
連絡が通じない可能性もあるかと思いながら、父に携帯から電話を入れてみる。
予想通り、呼び出し音すら鳴らず、全くの不通。しげは「外に出てるのかなあ。天神とか行ってるかも」と落ち着かない様子だが、状況が分からないものをどうにかできるものでもない。最悪の場合、マンションで倒れてきた棚の下敷きになって気絶しているということだってありえなくはないが、慌てて父のマンションまで駆けつけていったところで、携帯が繋がらない現在、もしも別の場所にいたらかえって連絡が付かなくなる。少し時間を置いてもう一度連絡を取ってみるべきだろうと、とりあえず、ひと心地つけることにする。
ネットを開いてみると、こちらは書き込みができるようであったので、心配してホームページを覗いている人もあろうかと、命に別状はないことは書き込んでおく。
[5]続きを読む
03月20日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る