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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■さようならドラえもん/『ハウルの動く城』
 パピオに着くと、玄関ロビーに其ノ他君と鴉丸嬢がいる。休憩中かと思っていたら、「今さあ、カトウとしげさんが大ゲンカしてて、居たたまれなくなって逃げてきたの」と言うのである。まあ取っ組み合いの喧嘩をしているとは思わないが、何ごとかと聞いてみると、要するにしげがアドリブかますんで、カトウ君がセリフのきっかけが掴めず、口論になってるらしい。
 「しげさんはさ、『ああ』とか『ええ』とか相槌打つところをね、『セリフを言うのイヤだから、態度で見て判断してくれ』って言うんだけど、カトウは『そんなのわかんないから、セリフを入れてくれ』って言うわけ。そしたらしげさんが『100パー入れればいいんだろ、そうするよっ!』て反発するもんだから、カトウが『そんなことを言いたいんじゃない』って言い合いになって……」
 ああ、またしげのヒスが原因か。
 もともと脚本にひんぱんに相槌のセリフを入れているのは、しげのリアクション能力が著しく低いからだ。これは日常生活でも私の言葉に無反応なことが多く、普通の人間に分かるようなリアクションが取れないでいるのだから、それを演技でやろうと思ったってできるものではないのである。本人はちゃんとリアクションしてるつもりでも、カラダは全く動いていず、そのことを指摘しても自分では動いてるつもりだからどう改善すればいいかわからず、キョトンとしている。つまり、ココロとカラダが乖離しているのに、その自覚ができてないのだ。
 そりゃ、表情の変化やちょっとした仕草だけでリアクションできて、しかも相手の次の演技を引き出せるだけのことができたら立派なのだが、そんなテクニックはしげにはない。セリフに気持ちを込めるだけで精一杯のくせに、「自分にはこんなこともできる」と思いあがっているのである。でなきゃ、何でその程度のことで口論になるのか、理由がわからない。
 「まあ、討論するのは基本的には悪いこっちゃないな」と言って、練習場に向かうが、あくまで「基本的に」なのであって、ヒステリックなものどうしの先が見えない討論など、やるだけ無意味だ。しげのヒステリーは、一度ドツボにハマるとセルフコントロールが全くできなくなる性質のものなので、マトモに相手をしてはただひたすら疲れるだけ、その先には不毛な荒野か砂漠が広がっているだけだ。
 場合によってはしげを一時的に追い出してアタマを冷やさせるか、練習自体、中止せねばならんかと思いながら中に入ってみると、確かにしげ、カトウ君、それにラクーンドッグさんも交えて何か言い合ってはいるが、激昂している雰囲気ではない。どうやら「山」は越えていたようである。取り合えずホッとしはしたが、それでもまだ余燼はあるようなので、打ち合わせの範囲内で会話が進んでるのなら仲裁に入るまでもないかと、こちらはこちらで小道具作りにいそしむ。
 ところがいつまで経ってもしげもカトウ君もボソボソと喋りあってるだけで、立ち稽古に入る様子がない。さすがに痺れを切らせて、「一部通しくらいはやらんのかね?」と水を向ける。そこでようやく動き始めたが、時間はもう5時。結局2シーンほどしか見られなかった(-_-;)。
 こないだ腫れ物の手術をしたばかりのカトウ君がまだ万全ではないので、動きの間が悪いのは仕方がない。それよりも鴉丸嬢が、声量はともかくしげに対して「腰が引けている」のが目立っていて、ここがちょっと困りものである。気持ちの上でしげに負けているので、それがどうしても演技に出てしまっているのだ。しげはテンパると周囲に対して意固地になるばかりか苛立ちをストレートに他人にぶつけてしまうので、気の弱い人にとっては少なからず恐怖の対象ですらあるのだが、実は全て去勢を張っているだけである。何も怖がる必要などないのだが、そんなのにも怯えてしまうところが、鴉丸嬢の気持ちの優しさがかえって裏目に出ているところだろう。

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11月21日(日)
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