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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■マイケル・ムーアの遠吠え/時雨沢恵一『キノの旅[』
選挙結果が僅差だった場合、やたら「不正」を訴えたがる連中は多いが、少なくとも露骨にそう主張しないだけ、ムーアの敗戦の弁は潔いとは言える。けれど、やっぱりジャン=リュック・ゴダールが指摘した「ムーアが考えているほどブッシュはバカではない。このブッシュ攻撃は相手を利するだけだ」という言葉が結局は正鵠を射ていた以上、ムーアの弁を「引かれものの小唄」としか受け取らない人も多かろうと思う。
何度も書いている通り、ムーアの『華氏911』その他のブッシュ批判は、今更指摘されるまでもなく、誰もが先刻御承知のことである。ブッシュが標的をビン・ラディンからフセインにスライドさせた時も、イラクは大量破壊兵器を隠し持っていると主張したときも、それをマトモに信じた人間がどれだけいるというのだろう。アメリカも日本も、それが見え透いた「ウソ」だと承知した上で、自分たちの利益のためにあえて騙されて乗っかったのだ。だから、いくら「ブッシュに騙されるな」というキャンペーンを張られたところで、「騙されてるわけじゃない」としか返事のしようがない。「組織」に所属していれば保身のために不正と分かっていても、それを受け入れなきゃならないことだってあるというのに、それを真っ向から「不正をしていて良心に恥はないのか」と糾弾されても、我々は沈黙をもって答えるしかないのである。それが悔しくないわけではない。悔しいがどうすればいいのか。「選挙に行け?」それで何かが変わるわけでもないことが分かっているから、憤懣やる方ないのではないか。
町山智浩氏は、日記中にメリーランド大学での調査を引用して、「ブッシュ支持者の72%が『イラクには大量破壊兵器が存在した』と誤解している。ブッシュ政権が『間違いだった』と公式に認めた現在でもだ。ブッシュ支持者の75パーセントがブッシュ政権の公式発表を聞いていないことになる。さらに、ブッシュ支持者の75%が『イラクがアルカイダのテロに関わっていた』と考えている。アメリカ政府の国家調査委員会が公式に『イラクとテロは無関係』と認定した今でもだ。しかもブッシュ支持者の55%が『調査委員会はイラクとアルカイダの関係を認めた』と逆に信じている」と、アメリカ人の無知を批判している。さて、それがおおむね事実であるとしても、中にはやはり「分かっちゃいるけどあえて知らぬフリをした」人間もかなりいるのではないか。どこの世界に、「私は悪いことと知っていて、あえて悪いことをしています」などと正直に告白する人間がいるだろうか。「イラクには大量破壊兵器がない? ブッシュも認めた? それがどうした。それでも大量破壊兵器はあったんだよ」そう嘯く人間など、腐るほどいておかしくはないのである。そういう連中を「愚か」であると言い切ることは簡単であるが、そういう「愚かな連中」を相手にしなければならないことを充分に想定しなかったムーアの“読みの浅さ”が結果としてブッシュを利することになったのではないか。『華氏911』の退屈さは、結局、アメリカ国民の良心に訴えようとしたムーアの「一人よがり」に起因したものだったと言えそうである。
11月06日(土)
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