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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■『文春』のほかの連載が読めないのは困るなあ。
筑波大内科の島野仁講師らが、血糖値を下げるホルモンのインスリンがどうして肝臓で効かなくなるのか、そのメカニズムを世界で初めて解明し、イギリスの科学誌『ネイチャー・セル・バイオロジー』に発表した。
過食によって、肝臓で糖を脂肪に変える遺伝子を制御する指令物質(SREBP―1c)が働きすぎること、その結果、肝臓でインスリンが作用するのに必要なたんぱく質の合成が抑えられ、インスリンの効きが悪くなることを突き止めたという。
糖尿病者以外の人には、何のことやらわかんないと思うけれども、この「どうしてインスリンが出ているのに、血中の糖分が分解できないのか」ってのは、これまでずっと謎とされていたことなので、おかげで適切な治療法がなかなか見つからないでいたのである。
これまで、糖尿病の治療には食餌療法、運動療法、薬物療法の三つで対処されていたのだけれど、この中では「薬物」が一番弱かった。「過食がよくない」とは分っていても、我々糖尿病者は、普通の人と同じ量を食べたって「過食」になってしまう。食わないのにだって限度はある。絶食しつづけるわけにはいかないから、仕方なくカロリーを控えて食べているのだけれど、それでもストレスだの他の要因が働いて結局、体重は減らないし、血糖値は上がってしまうのだ。酒もタバコも肉食もやってねえってのに、なんで痩せねえのか、全くどうすりゃいいのよって感じだったんだけれど、この“SREBP―1c”の研究が進んでいけば、新たな治療薬も開発されていくかもしれないのである。
いやホント、素晴らしい朗報なんですよ、これは。ただ、朗報ではあるのだが、さて、現場に反映されるのがどれくらい先になるのかはまだわかんないんだよね。再検だってまだまだあちこちの医療機関でされてくだろうし、仮に実験が正しいと証明されたその後、薬が開発されても、その使用認可が降りるのにまた時間がかかってしまうだろうから。それでも数年の辛抱だろうとは思うんだけれど。
何週間か前のこと、塾頭さんが肥満を抑えるのには血液型によって摂取する食べ物がどうのと掲示板に書かれていた。糖尿病の肥満については、今までの日記にも何度か書いてたことだし、今回の研究成果でも分かるのだが、基本的には遺伝子レベルでの病気なのである。抗原(アレルゲン)の違いを示す血液型とは直接の関係はない。いろんな医学書や研究書を付き合わせていけば、そのあたりの事情は見当がついてくることなのである。
トンデモ科学、擬似科学に人がどうして引っかかりやすいかと言えば、どんな理論であっても最初から誤り、ということは滅多になく、その出発点はごくごくマットウであることが多いためだ。それが思考を進めていくうちに、途中からヘンな脇道に入りこんでしまう。なぜかと言えば、初めから終着点をこれと思いこんでしまっているために、途中の論理の矛盾に気がつかなくなってしまっているからだ。
どんな科学だって、基本的には「仮説」の集積に過ぎない。「絶対」を過信するのは危険である。「SREBP―1c」だけが、肥満の原因と短絡的に考えてしまうのもマズかろう。薬だけに頼ってもよくはない。やっぱりカロリーの過剰摂取は控えた方がいいし、運動だってした方がいいのである。
こないだの入院中の関西人がどうにも腹立たしかったのは、新米の栄養士にわざと答えにくい質問をしておいて、それに答えられなかったからと言って、だから自分が過食したって構わないような、論理のすり替えを行っていたことである。自分のからだのことなのに、そんなズルをして、なんか得でもあるのか。それが患者のために話をしている医者、看護師、薬剤師、栄養士さんへの礼を失していることになぜ気付かないか。
自分の思考方法に、どこか「ゴマカシ」がないかどうか、それはいつだって丹念に見ていかなきゃならないよな、と思うのである。
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03月17日(水)
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