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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■別れの謂れ/『おそろしくて言えない』1巻(桑田乃梨子)
 えいくそ、新書版持ってるのに、「描きおろし・巻末特別ふろく『なかよしだもの』22ページ収録!!」の惹句を見て、つい買ってしまった。これだからムダに本棚から本が溢れ出ちまうのである。22ページと言っても殆どエッセイマンガみたいなものだから、わざわざ買うほどのこともないと冷静な理性はそうささやいているのだが、まあ理性の通りに行動することが正しいと決まってるわけでもなし(^o^)。

 紹介文を見ると、主人公の御堂維太郎のことを「最強のオカルティックハラスメント男」なんて書いてある。連載時の平成2年ごろにはもう「セクシャル・ハラスメント」という言葉が一般化してたんだなあ、とこういうところで確認できる。別にこんなところで確認しなくても『現代用語の基礎知識』のバックナンバーを調べた方がはやかろうが。
 更に数年後には例の宗教団体の事件があったせいでオカルトを利用したイヤガラセはシャレにならん自体になっちゃった。一時期この作品が全然店頭に見かけなくなってたの、そのせいじゃあるまいな(^_^;)。

 ともかく、復刊してくれたのが嬉しい一冊。
 悪霊・低級霊と波長が合いまくりで、あらゆる災難を引き寄せてしまうくせに霊感ゼロ、徹底的な現実主義者の高校生・新名皐月。
 怪我、病気、事故、失恋の不幸の連続の果てにようやく彼が相思相愛になった相手は、新名に霊的イヤガラセをすることに無上の喜びを覚える霊能力者・御堂維太郎の妹・維積であった。
 しかもこの維積ちゃん、兄の霊的教育の反作用で、バリバリの霊感少女で歪んだ性格の維積B(ブラック)と、抑圧された乙女心が表に表れるようになった維積W(ホワイト)の二つに人格が分裂していた。
 御堂と維積Bの二人にジャマされて、果たして新名と維積Wの恋は実るのか?

 コメディではあるけれど、桑田さんのマンガで恋の障碍となる条件はいつだってとんでもなくハードだ。これだって、「あなたは多重人格だとわかってる人を愛せますか?」って話である。後の『ほとんど以上絶対未満』じゃ、「女になってしまった親友を友人として遇せますか」なんてとこにまでモチーフが過激化していく。『だめっこどうぶつ』は「種の壁は越えられるか」ってことになるか(^.^)。
 言葉は悪いが、桑田さんは根にすごく暗いものを持ってる人だと思う。ドラマは人と人との葛藤を描くものではあるが、それにしても現実に置き換えたら(意外に現実にありえないことではない設定の話も多い)、登場人物たちにのしかかってきた問題の重圧はハンパなものではない。たいていの人間は、あんな環境に置かれたら、それに耐え切れなくなって、心が壊れてしまうのではないか。
 なのに、桑田さんのマンガのキャラクターはいつも前向きだ。御堂が新名をからかい、新名が御堂を拒絶し続ける様子ですら、「相容れない人間同士にも未来はある」と謳っているようである。
 「世の中、ツライことばっかだけど、でも生きてて悪いってほどでもないよ」。
 なんか言葉にはしてないけれど、そんな雰囲気が漂ってる感じがするのである。でもそれはこのマンガを最後まで読んでようやく、ああ、そうだったのか、と気付いたことなんだけどね。

 桑田さんのマンガの中でもこれは最初にして最大のヒット作で、CDドラマ化もされた。タイトルは『おそろしくて聴けない』(脚本・さらだたまこ)。でも多分もう絶版になってるだろうなあ。
 キャストは御堂維太郎に故・塩沢兼人、新名皐月に緑川光、御堂維積に宍戸留美、新名葉月にかないみかという布陣。塩沢さんはもう、御堂にピッタリとしか言いようがない好演だが、宍戸留美の二役ぶり(二重人格なのである)も意外にいい。ドラマ自体は、キャラクターの解説に留まっていて物足りない感が強いのが残念。

10月01日(水)
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