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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■パニック・イン・トキオまたはJ○A金返せ凸(`0´)凸/舞台『愛とバカユージ』
 スチュワーデスが無線を片手に行ったり来たりしてるが、聞こえる声は「まだ準備中」とか「お子さま連れだけ先に」とか、希望に繋がるものではない。しげの顔がますます暗くなる。
 ようやく搭乗できたのが3時。機内アナウンスで機長が「1時間10分で東京に参ります」と、いつもより猛スピードで飛ぶことをアピール。「遅れてすいません、許してえな許してえな」ってことが言いたいんだろうが、必ずしも低姿勢に聞こえないのは日頃空飛んでて人間を低く見てるのに慣れてるせいか。そんなアホなことを考えてしまうのも、私の心が疲れているせいであろう。いつもは飛行機に乗ると必ず機内放送で落語を楽しむ私も、今日は音楽ひとつ聞く気になれなかった。
 しげは席に着くなり、着かれきった顔で寝息を立て始めた。夕べも仕事で、多分まる一日くらい寝てないはずである。
 芝居を見終わったら、ホテルでぐっすり眠れるから、今はゆっくり寝てなさい。……と言いつつ、私も寝る。おかげで二人とも、機内サービスのジュースを飲み損ねたのであった。

 羽田到着、4時20分。ホントに1時間10分ほどで着いた計算になる。がんばったな機長。翼がやたら軋んでて、空中分解するんじゃないかと、ちょっと怖かったが。
 しげ、着陸の案内に目覚めて、「寝とった……」と呟く。目をつぶって、そして目を開けたらもう福岡から東京に移動してしまっていたような感覚か。
 しげが相当腹をすかしていたので、まずは空港のレストランで食事でも、と誘う。定食が1500円くらいするが、東京のしかも空港内ならこんなものだろう。
 しげは食事中もまだ、芝居の時間を気にしているようだったが、自嘲するような口調で「どうせ最前列はもう無理だろうから、ゆっくり行くんでいいよ」とちょっと泣き顔でブツブツ言っている。でも、モノレールから山の手線への連絡時間を計算に入れても、芝居のあるラフォーレ原宿まで、1時間もかかりはしないだろう。しげはいつでも悲観主義過ぎるのである。
 と考えた私は楽観主義に過ぎたかもしれない。
 モノレールに問題はなかった。浜松町から山手線に乗り換えて、ひと駅先の田町まで来たところで、突然、電車が動かなくなった。
 「人身事故がありまして、山の手線はただいま復旧の目途が立っておりません」
 思わずしげを見た。固まっている。トンカチで叩いたらそのままバラバラになつて崩れ落ちそうだ。
 ああ、こうも悪い偶然が重なることってあるのだろうか。金田一か。
 書いてる私自身、これをドラマにしたら絶対「リアリティがない」って突っ込まれるよなあ、と思うが、これは全て実話なのである。
 何があったのかよく分らないイラン人だかインド人だかって感じの外人が喋りかけてくる。そんなもんを相手にしている余裕はない。首を横に振って無視すると、この外人、「ケッ、こいつ、英語もわからねえかよ」みたいな軽蔑のまなざしを向けてくる。そいつの後ろ頭をちょうど手に持っていたチェーンソーで輪切りにしてやりたくなったが、グッと我慢。今はともかく、少しでも先に進むことのほうが先決だ。
 ちょうどやってきた京浜東北線に乗り換えて、大井町まで。そこから更にりんかい線に乗り換えて、大崎まで。そこでもう一度山の手線に乗り換えたところで、ようやく山の手線が復旧。
 結局、ふた駅ほど遠回りしてもとに戻っただけのようだが、これでもただ待っているよりは5、6分は先に着けるはずである。今はその、5、6分が惜しい。時計はもう、6時を回っているのである。

 ラフォーレ原宿に辿りついたのは開場の6時半ちょうど。傘をカバンの中から出すヒマもなかったので、駅からラフォーレの間の100メートルほど、二人ともずぶ濡れになる。なあに、どうせ会場に集まったお客さんの熱気で、こんなのはすぐ乾いちまうだろう。
 入口には長蛇の列が出来ていたが、予約チケットの整理番号の通りに並んでいたので、開場時間に間に合いさえすれば、まあまあ前のところに並べるのであった。

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03月01日(土)
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