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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■ベスト?/『赤ちゃんをさがせ』(青井夏海)/『じつは、わたくしこういうものです』(クラフトエヴィング商會)/映画『白夫人の妖恋』
シャミッソーの『影をなくした男』に登場する「七里靴」。あれを小栗氏は手に入れた。そこで思いついた「月光売り」。地球の裏側にひとっ飛び、中国の故事にあるがごとく、「杯に月を充たして」、瞬時に注文主のもとに戻ってくる。
「どなたにでもお売りします」
もう一枚の写真の小栗氏の手には、白く光る杯が。
二つ目の職業。
「秒針音楽師」。
世界で一番小さな音楽を作る人。
若林弓子さんは28歳、楚々とした美人が、木漏れ日の森の中で、小さな小さなバイオリンで曲を奏でている。
『一枚の落ち葉のための音楽』。
『一本の煙草のためのワルツ』。
ほんの数十秒、あるいは数秒で終わってしまう音楽。どうしてそんな短い局しか作らないのか?
彼女は言う。
「この世って、みんな小さな『かけら』でできていると思いませんか?」
三つ目の職業。
「果実勘定士」。
果物の品質を鑑定する人? いえいえ、「鑑定」ではなく「勘定」。
この木にはいったいいくつの果実が実るのか。
冬のさなか、一本の枯れ木を見ながら半年後の果実の数をピタリと勘定する。それが幸田紺さん、37歳の仕事。穏やかな顔の、ヒゲのおじさんである。
枯れ枝に優しく触れる幸田さんの横顔はなんだかあの宮澤賢治みたいだ。
四つ目の職業。
「三色巻紙配達人」。
三つの巻紙はそれぞれ、「過去」「現在」「未来」のためのもの。
坂口杏さん、24歳は、人の、言葉にできない思いを、赤・青・黄色の三つの巻紙に写し取り、その思いを過去のあなたに、今のあなたに、未来のあなたに届ける。
時はどうやって遡るのでしょう?
「遡る」とは「坂、登る」と書きます。そうです、そういう坂が昔から、ずっと昔からあるのです。
あなたも坂口さんに手紙を届けてほしいですか? けれどそのためには一つの条件があります。「赤巻紙青巻紙黄巻紙」って早口言葉を、スラリと言えないといけないんです(^^)。
こんな変わった職業の人が、全部で18人。
残りの人の職業だけを紹介すると、「時間管理人」「チョッキ食堂」「沈黙先生」「選択士」「地暦測量士」「白シャツ工房」「バリトン・カフェ」「冷水塔守」「ひらめきランプ交換人」「二代目・アイロン・マスター」「コルク・レスキュー隊」「警鐘人」「哲学的白紙商」「シチュー当番」。
さて、どんな職業か、見当がつくでしょうか?
この中には、確かに変わっているけれども現実にありそうなもの、現実にあってほしいもの、ちょっと現実的には無理だけれどもなんだか可笑しいもの、などなど、いろんな職業が考えられている。
でも、中でもやはり心惹かれるのは、「ホントにこういう仕事、あるんじゃないか」って思わせてしまうもの。現実から離れ過ぎてしまったら、面白くはあるけれど笑って楽しむことしかできない。
ちょっと浮世離れしてはいるけれど、ホントにありそうなもの、そのバランスが取れているのが一番面白い。
私が特に好きな職業は最後の「シチュー当番」。
名前の通り、「シチューを作る当番」なのだけれど、働いている場所が問題。
羽深月子さん、36歳のお勤め先は「冬眠図書館」。冬の間だけ開いている図書館。しかも開館時間は夜の8時から朝の8時まで、夜の間だけ。
この図書館を作った人たちは本当の本好き。けれど、仕事が忙しくてなかなか本が読めない。ついに冬の間だけ、仕事をすることをやめて、みんなで本を持ち寄って、回し読みするためだけの「図書館」を開設してしまった。
でも食事はどうするの? 寒さに震えたら?
というわけで、できたのが、「コーヒー当番」「コッペパン当番」「ブランケット当番」「シチュー当番」。羽深さんは司書兼、「シチュー当番」なわけ。
実は羽深さんの当番は交代制。だってそうしないと、羽深さんの本を読む時間がなくなってしまうから!
なんだかこの一つ一つの職業をもとにして、小説か戯曲が一本書けそうだよなあ(^o^)。
CS日本映画専門チャンネルで、『白夫人の妖恋』を見る。
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02月07日(金)
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