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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■年老いていく実感/『営業ものがたり』(西原理恵子)
コンタクトをするようになって、自分の素顔を久しぶりにまともに見るようになった。目の下のクマがかなり激しい。疲れた土気色の、何か病気を持っていそうな中年というよりは初老の男の顔がそこにある。髪はもう1/3が白髪だ。明らかに実年齢より10歳は老けている。
父の葬式くらいはちゃんと仕切って死ねたらなあと、そんなことを考えている。
マンガ、西原理恵子『営業ものがたり』(小学館)。
前作『女の子ものがたり』が、いつのまにか「サイバラさんをもっとメジャーにして売り出そう」キャンペーンの『営業ものがたり』にシフト。
充分、儲かってるはずだけどなあ、でも『まあじゃんほうろうき』のころから本来手に入ったはずのお金がなぜか他人のところに行ってしまうのをセキララに見せられているからなあ、つか、そんなのまでマンガにしちゃうから、ワラワラとタカリが寄ってくるんだと思うけどなあ、そう言えばサイバラさん、ア○ウェ○にも入ってたはずだけど、あれもダメだったんだろうなあ。
「未だに自分の単行本が『に』の棚にある。」と世間に認知されてないことを嘆かれているが、マンガの世間への浸透度なんて、マンガ家やマンガファンが思っているほど広くも深くもないのである。手塚治虫が国民栄誉賞取れない国だから。秋本治も「未だに『こちら葛飾区亀有交番』とか言われる」と憤慨しているのだから。
かく言う私も、マンガに詳しいなどとはとても言えない。ミクシィのプロフィールで、「好きなマンガ」を100挙げようとして、ある事実に愕然としたのだ。ベスト100を選ぶに当たって、自分で、「連載中の作品を除いて、完読している作品のみを挙げる」と決めて選び始めたのだが、ふと気がつくと、その基準で行くなら、自分には「赤塚不二夫や藤子・F・不二雄は殆どの作品が選べない」ことに気が付いたのである。
『おそ松くん』『天才バカボン』『もーれつア太郎』『レッツらゴン』、全て、途中までしか読んでいない。『オバケのQ太郎』に『ドラえもん』も同様だ。これらの作品は、完全版がなかなか出なかった、という事情があるが、それにしても博捜して読むまでのことはしなかったのだから、「好きなマンガ」と堂々と言うわけにはいかない。しかし、『ドラえもん』ファンと口にするもので、てんとう虫コミックスないしは藤子不二雄ランド版で『ドラえもん』を全巻揃えている人間は何割かしかいないのではあるまいか。長谷川町子の『サザエさん』を完読している人は、この日本には数%しかいないと思う(文庫全集は完全版ではない)。
話が逸れたが、まだまだサイバラさんは恵まれてる方だと思うので、ちょっとくらい発行部数で倉田真由美に抜かれたからって、ヒネなくていいと思うのである(ポーズだけだと思うけど)。
で、今回のメインはオビにもある通り、「サイバラ版『PLUTO』」である、『うつくしいのはら』。「プルートは私でもよかったんじゃないのお」の冗談発言から駒が出ちゃって、現実になっちゃった企画であるが、「ロボットが描けません」と泣きを入れるサイバラさんがいじらしい。もちろん、サイバラさんなりにロボットを描くことも可能だと思うのだが、サイバラさん流の韜晦で言うなら、「勝ち組の勝ち土俵にあがって勝負するほど、こっちもあたま悪くはないわよ」である。もちろんこれは、「勝ち組の勝ち土俵に上がったって勝てるのだが、それは浦沢直樹に敬意を表してやらない」ということだ。
「サイバラに『PLUTO』が描けるかよ」と「本気で」思っているやつがいたら、そいつはマンガというものが全く分かっていない。
そうして、土俵からリングアウトして(土俵アウトと言うべきか)描かれたのが、オビに「サイバラ、生涯の最高傑作」と書かれた『うつくしいのはら』である。アトムもプルートゥも出てこないが、これは間違いなく、西原理恵子にしか描き得ない、『PLUTO』であり、『火の鳥』なのだ。
少女は毎日、教会に行く。教会に行って、字を習う。字を習えば、働けるようになるからだ。働いて、家族が一緒に暮らしていけるようになるからだ。
あるとき、少女は、野原で兵隊の死骸を見る。少女は死んだ兵隊と会話をする。どこから来たの? 家族はいるの? 何でこんなことをしてるの?
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11月07日(月)
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