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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■九州国立博物館、開館!
「あれ、マスコミの人だよ」と私が言うと、「ああ、それで急いどったとか」と頷いた。歩道の横にだって道はあるのだから、急ぐのならそこを走ればいいのに、わざわざトシヨリをどかしてまで先に行きたがるような非常識な(しかも開場一時間も前に)人間なんて、マスコミの人間以外にいるわきゃないのである(案の定、あとで、場内で取材してる姿を見かけた)。
博物館に到着してみると、開館までにはまだ一時間以上あるのに、既に50人ほどが並んでいた。先頭は小学生の三人組である。父がそれを見て「あれはヤラセやな。誰が小学生で博物館とかに興味があるもんか」と決め付ける。その可能性もないわけではないが、小学生でも美術品とかに興味のある子供がいてもおかしかないと思うけどね。
しげがすっかり退屈して、かと言って父がいる手前、「帰ろう」とも言い出せずにぐったりして来たころにようやく開場。まずは三階の開館記念特別展示「美の国 日本」展に行く。オープニングセレモニーで、あちらこちらのお偉いさんが10人ほど、寄ってたかってテープカット。例の三人組の坊ちゃんたちが「一番乗り」ということでインタビューされて中に入ったあと、ようやく入れてもらえる。
なんたって何百点という展示物があるのだから、内容を詳しく書いているとキリがない。ごくかいつまんで紹介することにする。
二部構成に分かれた第一部は「アジア古代王朝の精華」。正倉院の御物や「漢委奴國王」の金印も見られる。近年発見された、阿部仲麻呂と同時期に唐に渡って客死した日本人「井真成」の墓誌もある。このくらいの漢文なら何とか読めるなあと一所懸命読んでいたら、隣に現代語訳の説明の看板が立っていたのであった(笑)。
第二部は「大航海時代の日本」。
室町・安土桃山時代の屏風絵や武士の兜・鎧・具足、また武士たちの肖像画など。父はやはり道具箱に描かれた山水や、屏風絵の風俗、花鳥風月などに興味を惹かれている。私の祖父は沈金師で、父は本当はその跡を継ぎたかったのだがそれを果たせなかった思いが、今でもこういう工芸品、美術品への憧れと拘りを抱かせているのである。
「お前の爺ちゃんはこういう展覧会があると必ず来て、絵を見て行きよったもんなあ。それで家に帰ったら、早速、絵を描いてみるとやけど、それが真似にならんで、ちゃんと爺ちゃんの絵になるとたい」
「爺ちゃんの絵は凄かったもん。ここにある絵のいくつかには負けとらんよ」
「跡ば継いだお前の伯父さんは十年しか続かんやったもんなあ。伯父さんには爺ちゃんのような格調はなかったけん」
身贔屓でなく、祖父の絵は、そして家具・調度に刻まれた金箔の鷹や、虎や、山水は、魂を与えられ、生きて動き出すかのような迫力と精気と、獰猛と慈愛とに満ちていた。残念ながらその血は父と私に伝わってはくれなかったようだが。
客はどんどん増えてきていて、一つの展示物をじっくり見ようにもどんどん押されていくような感じになる。最後の展示は信長や秀吉ほかの戦国武将たちの肖像画だったが、立ち止まっているとこちらの方が迷惑をかけているような感じになる。予定より早めに次の会場に移ったが、それでも一時間以上は経っていた。
四階の「文化交流展示室」。旧石器時代から近世までの美術品、博物資料の数々を展示している。
でもその中で一番印象に残ったのは、出入り口にあった「水城のジオラマ」の中に、誰がイタズラしたのか、「トラクターのミニチュア」が置かれてあったことだ。ガラスケースの中に密閉されているから、やったのは関係者以外にはいない。楽しいことをする人もいるものだが、誰かが気が付いて撤去しないかどうかが心配である。九国に行かる方は御早めに。どこにそれがあるか探してみるのも一興だろう。
世界地図を見て、地名が全て漢字で書いてあるので、学生さんらしき人二人が一所懸命解読しようとするのだが歯が立たない。「……てい・あ? どこだこれ?」なんて言っている。「あのね、それはね、『応帝亜』と書いて『インディア』と読むんだよ」とよっぽど言ってやろうかと思ったけどやめた。だって「分かった、メキシコだ!」とか言いやがるんだもん。
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10月16日(日)
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