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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■オトナもコドモも/『彼氏彼女の事情』21巻(完結/津田雅美)
しかしもう何十年も「大人が見る映画が少なくなった」と嘆かれて久しいけれども、確かにこのラインナップの中で「大人」が心惹かれそうな映画が『イージス』くらいしかないってのは、残念なことである。でまた若い連中の中には「『イージス』面白いよ」って勧めたって、「難しそうで分かんない」とか言いやがるやつがいるんだよな。「知識」がなくたって、「映画を見る力」が素養として備わってれば、映画は大人も子供も関係なく面白く見られるんだよ。Yahooの映画評とか見てると、「この映画は大人向け、これは子供向け」と選別してるやつほどガキだって状況があって、しかもそんな批評とも言えない感情の垂れ流しがもうすっかり蔓延してしまっている。
なんかもうね、日本人の映画鑑賞眼を底上げするためには、小中高校で週一回、必ず「映画の時間」とか設けて、国内外の名作映画を見せてくくらいのことをしなきゃならんのじゃないかと思うけれども、そういうことを考えるだけの度量がそもそも文部科学省にカケラもないってのが、一番の問題だと思うんだけれどもね。
「GTF グレータートウキョウフェスティバル」の映画部門として、8月12日〜18日まで開催されていた「トーキョーシネマショー」の最終日に、最も優れた日本語タイトルのつけられた作品を選ぶ「筑紫賞:ゴールデンタイトル・アワード」に、韓国映画の『箪笥』が選ばれたというニュース。
審査委員長の筑紫哲也は、「『海を飛ぶ夢』か『北の零年』にしようと思っていたが、若い学生に意見を聞いたところ、『箪笥』の評価が高かった。原題(「二人の姉妹の物語」)と全く異なる邦題のほうが、この作品の怖さが伝わる点を評価した」と選出理由を語っていたって言うんだけれど、筑紫さんはこの邦題が半村良の怪談小説『箪笥』から取られてるってことに気づいてないのかね? 配給会社は「いや、このタイトルはオリジナルでそんな短編なんて知らない」としらばっくれるかも知れないけれど、映画中、件の「箪笥」は重要アイテムの一つではあるけれども、映画全体のタイトルとしてふさわしいかどうかはちょっと疑問がある。だいたい怪談短編の傑作と言われ、白石加代子の『百物語』の演題の一つとしても語られている『箪笥』を知らないというのは不勉強と言われたって仕方がないのだ。
多分、配給会社の方は知っててこの邦題を付けたのだろうけれど、筑紫哲也は全く知らなかったのに違いない。つか、周囲に誰もそのことを指摘してやるスタッフがいなかったということか。筑紫さんにどれだけのブレーンが付いているのかよく知らないのだけれど、こんな初歩的なミスを犯しているようじゃ、たかが知れていると思うのである。
けど、タイトルはともかく、『箪笥』はよく出来た映画である。どこがよく出来ているかはネタバレになっちゃうので詳しくは言えないが、「ホラー」を期待して見ると全然違う映画なので、そこはちょっとご注意とだけ言っておこう。
天野ミチヒロ『放送禁止映像大全』(三才ブックス)。
どこぞからの抗議やら自主規制などで、再放送、再上映やソフト化がされなくなっている映像作品をなんと全263作品も紹介した日本映像史の裏面史とでも言うべき本。その分量の多さには驚きもするし、資料の収集、調査にはかなり苦労をしたものと思われる。その努力には素直に敬意を表したいとは思うのだが、どうしても先行する安藤健二の『封印作品の謎』の後追い企画のようにしか見えないところが本作の弱点ではある。
確かに、これだけの作品量を『封印』はカバーはしていないが、各関係者への取材、インタビューを通じて、作品への抗議、告発の根拠のなさ、自主規制のいい加減さなどの熾烈な追求においては、『封印』の方が充実している。『放送禁止』の方はどうにも表面的な「なぞり」だけに終わっている感が強いのだ。
一つには、天野ミチヒロ氏の映像作品に対する素養が著しく低いことも関係しているだろう。つか、一般的な常識もあまり持ち合わせてはいない人のようで、記事のあちこちに間違い、勘違い、情報の偏りが見受けられる。取材不足というより、常識を知らないための誤謬がやたら多いのだ。
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08月23日(火)
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