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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■対策なんて何もない/『素晴らしき特撮人生』(佐原健二)
よしひと嬢はそれまで「アニメイト」や「まんだらけ」などを回っていたそうだが、かなり「いたたまれなかった」そうな。もうどんな客が群れ集っているのか目に見えるようであるが、私などが足を踏み入れた日には違和感ありまくりであろう。それでも平気で入り込むことあるけどね(笑)。
佐原健二『素晴らしき特撮人生』(小学館)。
表紙は『ウルトラQ』の主演お三方、佐原健二・桜井浩子・西條康彦のスチール写真。このカバーを外すと、今度は“現在の”お三方が全く同じポーズで……。考えてみれば、『ウルトラQ』に携わったスタッフ・キャストの方々の多くが鬼籍に入られた中で、主演の三人がまだ活躍して(西條さんは一応、役者を引退なされているけど)いらっしゃるというのは本当に嬉しい。佐原さんは母と同い年だ。
実を言うと、『ウルトラQ』で佐原さんが演じた「万城目淳」というキャラクターはそれほど好きではなかった。子供の目にはあまりにもヒーロー然としていて「ええかっこしい」に見えたし、星川航空のパイロットとという設定はまだしも、「SF作家」というのがどうにも似合わないような気がしていたのだ。本書を読んで、「実は平田昭彦がこの役をやりたがっていた」というのを知って、「ああ、平田さんが演じていてくれたら!」と思ってしまったのは、もちろん私が平田昭彦絶対主義者であるからである。冷静に考えて見れば、クールさが魅力の平田さんが万城目を演じるよりも、佐原さんの方がよりベターなキャストであるということは理解できるのだが。
「万城目」が嫌いだからと言って、佐原健二さんが嫌いなわけではない。何と言っても『モスラ対ゴジラ』の虎畑次郎はゴジラ映画史上でも、最も印象的な悪役の一人だろう。この役を演じるために「本物の不動産屋に役作りのためという目的を隠して会った」というのだから、その役者魂には感動する。虎畑のあの人を小馬鹿にしたようなせせら笑い、あれは「ナマ不動産屋」の表情だったのだなあ。全ての不動産屋さんが虎畑みたいなカネの亡者だというわけでもなかろうが、いかにも「らしい」のは佐原さんの演技力である。
しかし、佐原さんが虎畑を演じてくれていなかったら、私は多分、長いこと佐原さんの演技力に気がつかないままだったろう。佐原さんは、主役から脇に回るときに内心忸怩たるものがあり、恩師である本多猪四郎監督に相談したというが、「ちっぽけなプライドは捨てろ」の言葉に勇気付けられたと言う。実際、主役にこだわって、佐原さんが役者を辞めてしまっていたら、たとえ『ウルトラQ』があったとしても、長く特撮ファンの間で佐原さんが愛され続けることはなかったのではなかろうか。佐原さんが万城目淳から虎畑次郎までを演じられた「役者」であったからこそ、「ゴジラ映画出演最多俳優」にもなれたと思うのである。
本書には当然のごとく、数多くの特撮映画・ドラマに関わった人々が登場してくる。そのエピソードをとても全部は紹介できないが、「ウルトラマンの生みの親」金城哲夫についての次のエピソードだけは紹介しておきたい。
ゴジラ映画がヒットを飛ばしていても、東宝では「ゲテモノ映画なんて」と陰口を叩いているやつの方が実際には幅を利かせていたそうである。もちろん佐原さんはそんな腐れた人間ではない。『ウルトラQ』のロケ中に、金城さんは佐原さんにこう言ったという。
「佐原さんはやっぱり研究熱心ですね。(中略)私は、特撮が本当に心底好きでしかも手を抜かない俳優さんは、私なりに見抜けるつもりでいますよ」
昔も今も、特撮に偏見を持っている人間はいくらでもいる。最新作の『ゴジラ FINAL WARS』でも、「ちょっとこいつは」という役者がアレとかコレとかいなかっただろうか? ある意味、映画そのものが「特撮」であることを理解できない人間は、役者も、監督も、いや、ファンである資格すらないと思うが、どうだろうか。
東宝で、「怪獣映画に出ようとしなかった主演級の役者」は、たいていが映画界から姿を消して行ったと思う。役者とは何か、答えはももう出ているのだ。
08月16日(火)
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