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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■カウンセリングもプラシーボ/『ニッポン硬貨の謎 ―エラリー・クイーン最後の事件―』(北村薫)
 今回のルパンが狙う獲物が、アメリカ・ネバダ州の空軍基地「エリア51」に保管されているUFOの破片「オリジナルメタル」だ、と聞けば、もうそれだけで「そんな使い古されたネタを」と気分は萎えてしまう。オープニングで反米テロリスト集団「ブラッディエンジェルス」(これも映画やマンガで何度も使われてきた陳腐なネーミングだ)によってルパンのニセモノたちが倒されるシーンは、またもや『OO7/ロシアより愛をこめて』のオープニングの拙劣な模倣だ。いや、そもそも「女アマゾネス」という設定自体、ルパンシリーズでは「女シンドバット」を初めとして何度となく使われてきたネタで、目新しくも何ともない。
 事件の「真犯人」も全く意外でないどころか、登場した瞬間に「こいつか」とすぐ分かるヘボな演出で、脚本、監督が視聴者をナメているのが一目瞭然である。でも、映画やミステリーに慣れてない視聴者はこんなショボい脚本でも簡単に騙されちゃうんだろうなあ。作画だって、一見、ふたコマ作画を多用してよく動かしているように見えはするが、動きの間や質感、重量感ともにデタラメである。枚数使えばいいってもんじゃないんだってば。会話のタイミングもかなり悪く、聞いていて少しも人間的な感情が伝わってこない。ナビゲーターの坂上みきが「シリーズ最高傑作」とかナレーションしてたが、いったいどこをどう取り上げればそんなことが言えるのか。
 もう次回あたりで未だアニメ化されていない「シャードック編」か「ヤップランド編」をアニメ化して、完結してほしいんだけど、これも若いファンたちには分かんない感覚なんだろうなあ。けれど頼むから旧シリーズの『魔術師と呼ばれた男』『脱獄のチャンスは一度』とか新シリーズの『死の翼アルバトロス』『さらぱ愛しきルパン』とか見たこともないのに、今のテレビスペシャルシリーズが面白いとか、そんな恥知らずなことは言わないでほしいのである。


 北村薫『ニッポン硬貨の謎 ―エラリー・クイーン最後の事件―』(東京創元社)。
 文庫になるのを待ちゃいいのに、ハードカバーで買っちまったよ。『ミステリーズ!』の連載でもう読んじゃってるのになあ。
 エラリー・クイーンの未発表原稿を北村薫が翻訳、という体裁でのパスティーシュ(模倣昨)であるが、これもファンの間で賛否両論を巻き起こしそうな作品である。本物のクイーンがいかに親日家だったからと言って、その「最後の事件」として一度捨て去った「国名シリーズ」を再開するとは思えない、そういう基本的なところから反発するファンもいておかしくはないからだ。
 そもそも本物のクイーンの手になる『日本庭園の秘密(ニッポン樫鳥の謎)』ですら、国名シリーズには入れられなかった(原題は“The Door Between”〔間の扉〕。これまで60年以上、雑誌連載時に“The Japanese Fan Mystery”〔日本扇の謎〕というタイトルが付けられていたという説は、近年の調査で誤りであることが判明した。どうやら江戸川乱歩がガセネタを掴まされたことが原因らしい。嗚呼!)。内容も細かく見て行けば、クイーン警視はまだ警視なのかとか、突っ込みどころは満載である。
 しかしどんなマニアやプロの作家でも、ファンの全てを納得させるパスティーシュを書くことは難しい。ある意味、パスティーシュは「お祭り」なのだから、あまりディテールには拘らずに「オアソビ」を大らかに楽しむくらいの姿勢で読んだほうがいいように思う。特に、これまでクイーンの作品を読んだことがない読者にとっては、純粋にミステリーとして面白いかどうか、そこが主眼となるところだろう。
 ところが残念なことに本作は、ミステリーとしてはかなりお寒いのである。北村さん、サインまで頂いたのに貶すのは心苦しいのだが、事実だから仕方がない。

 1977年、来日したミステリ作家兼「名探偵」のエラリー・クイーンは、東京に発生していた幼児連続殺害事件に興味を持つ。殺された幼児たちは、毎週日曜、一様に女性のキモノ(フリソデ)に包まれて発見されていた。そこには何かの寓意があるのかそれとも犯人の仕掛けた心理的な罠か。

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07月22日(金)
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