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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■すれ違う言葉/『不死身探偵オルロック 完全版』(G=ヒコロウ)
その後は食堂でしげはステーキ定食、父は玄海定食(刺身)、私は天ぷら定食。これに華味鶏のから揚げをつけて三人でつまむ。父は焼酎を注文するが(糖尿病のことなんて考えていないのである)、私は「こどもびいる」というのがメニューにあったので頼んでみる。その正体は美野島の「下町屋」という店が開発した、「ビールのような泡が出るソーダ(アップルタイザー)」であるが、子供が大人っぽい雰囲気に浸って飲むのにちょうどいい、ということらしい。
「これ、東京土産にいいかな?」と私が言うと、「どうせ東京にも出店があるよ」としげが言う。後でネットで調べてみたらその通りで、新宿あたりで飲める店があるそうだ。全く、これだから地方土産の選定には苦慮させられる(いや、それほど悩んじゃいないけど)。
父から「どうして今年は東京に行かんとや?」と聞かれたので、いつも行ってるシティボーイズの公演が、今年は北九州であるから、と説明する。
「その代わりじゃないけど、6月には別の芝居見に東京に行くよ」
「いつや?」
「6月の24日から26日まで」
「芝居はいつ見るとや?」
「25日の昼」
「なら、26日は空いとるとやな?」
「そうだけど、何か?」
「ディズニーランドのチケットがあるばってん、お前たち、行かんや?」
「何でそんなもん持っとるん?」
どうして父がそんなものを持っているのかはよく分からなかったが、ともかく東京の予定はこれでだいたい決定である。オフ会をいつやるかは未定だったが、こうなると6月25日(土)の夕方以降しか時間がない。
徹夜カラオケはまず無理なので、三、四時間くらいの会食だけになるかとは思いますが、ご都合のよろしい方はご連絡くださいませ。
父のマンションに着いたら、DVDが増えていた。
『釣りバカ日誌』のボックスを買ってたのには驚いたが、まだ一本も見ていないという。いや、私もテレビで流れていてもチャンネルを合わせたことはない。興味がなかったわけではないが、まあ、デート向きの映画じゃないし、後回しにされるのは仕方がないとこである。せっかくだから、ということで、第一作をまず三人で見始める。
今からもう17年も前の作品だから、出演者たちもやはり若い。そのころから既におじいちゃんであったスーさん役の三国連太郎ですら若い。しかもシリーズ化を考えていない単発映画のつもりで作られているから、物語もきっちりまとまっている。原作マンガの初期、ハマちゃんがスーさんを自社の社長と知らずに釣りに誘い、スーさんもハマちゃんを自社の平社員と知らず釣りに興じる、という「勘違いの喜劇」を、テンポよく見せている。三国連太郎も、これが初めてのコメディ演技とは思えないくらいに、頑固だがちょっと寂しい老人を“軽快に”演じている。この「軽さ」が重要なのだ。
スーさんを孤独な老人と信じているハマちゃんみち子さんの夫妻は、スーさんに仕事を斡旋さえする。感動して涙ぐむスーさん。けれど、ハマちゃんを騙している罪の意識にも責められる。スーさん、基本的に小心者なのだ。会社で偶然スーさんを見かけたみち子さんは、真相を知る。悲しむみち子さんを前にオタオタするスーさん。気がついてない人もいるようだが、スーさんはみち子さんに恋もしているのだ。もちろんこれは三角関係というほどに明確なものではないが、三人の間にある種の緊張感は確かにある。これを重く演じてしまっては、ドラマはドロドロになる。屈託のないみち子さんを演じる石田えりの可愛らしさと、青年のころに戻ったような三国連太郎の純情さが、ドラマを明るく収束させる。
ラストでハマちゃんとみち子さんは故郷の土佐に帰っていくが、これはまさしくこの映画を単発として美しく完結させるため必要な手段であった。これまで見ずにいたことが悔やまれる佳作。
でもなんで親父は買っといて全然見ないでいたのか、不思議に思って聞いたのだが、「DVDノ操作の仕方が分からない」ト答えた。……DVD入れて再生ボタン押すだけだよっ!
『キネマ旬報』5月上旬号、岡本喜八監督追悼特集がなんと30ページ。
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05月02日(月)
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