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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■三崎亜紀氏サイン会/『仮面ライダー響鬼』第1話ほか
 北原には戦争の状況がさまざまな形で知らされる。スパイとして徴用された彼は、敵地である隣町に潜入もする。しかし、いったいどこでどのように戦争が行われているのか、いや、そもそもこの戦争が何が原因で始まったのか、全てが北原には見えないまま、時間だけが進行していくのだ。その間も確実に戦闘で人々は死んで行くのに、北原は最後までただの一個も「死体」に出会うことはない。
 ネタバレはこのへんで抑えておくが、読んで感嘆したのは、極めて非現実的な状況を設定していながら、全体としてはカフカ的な観念論に流れることなく、「日本人がこの60年間に経験してきた“現実の戦争”の性質」を象徴的かつストレートに描いていた点である。実際、「これだけ戦争に関わっていながら、その実態を知らない」国民というのはちょっといないのではないか。そういう状況に置かれている日本人の存在そのものが滑稽であり同時に悲劇的でもある。
 読んでつまらなかったらサイン会に行くのもやめようかと思っていたのだが、“現実がどうにもリアルに思えない”感覚で書かれた小説というのは、それだけで「SF」なのであり、「面白い」のである。ブラウンが、ディックが、スタージョンが、筒井康隆が、手塚治虫が、石森章太郎が、藤子・F・不二雄が、押井守が、いや、全てのSF作家が何らかの形のバリエーションでもって描いてきたテーゼである。要するに私はこれを「うおおおう、SFじゃんか!」と感激して読んだのだ。

 サイン会は2時からだったが、お客がなかなか集まらなくて、開始が5分ほど遅れた。
 現れた三崎さんの印象は、新人さんらしく物腰がやわらかくて、それほど作家然とはしていない。顔立ちはなんとなく小ぢんまりとした京極夏彦という感じである。
 事前に感想を書くメモを渡されていたので、「タイトルが『三丁目が戦争です』に似ていたので興味を持ちました」と書いておいた。三崎さん、それをチラッと見て、「ああ、『三丁目』ですね。よく比較されて批評されるんですけど、実は読んだことないんですよ」と仰る。てっきりあれを読んでインスパイアされたものと思いこんでいたので、これにはびっくりした。でも先ほども書いた通り、中身のベクトルは全く違うのである。
 「SFを意識されて書いたんですか?」とお聞きしたら、「いえ、SFということでなくて、幅広い人に読んでいただきたいと思いまして」と言われる。SFファンとしては寂しいお答えであるが、ど壺にはまったSFマニアは偏狭で冷笑的な人間が多いから、そういう人に読んでもらっても面白くはなかろうと思う。今はそういう時代なのだ。
 「恋愛小説としても楽しませていただきました」と言うと、「屈折した恋愛ですけれども」となんだかお照れになっているよう。つい、「いえ、恋愛にストレートも屈折もないんじゃないでしょうか。別れのシーンには、感銘を受けました」といささか若僧のような言葉が口をついて出てしまったが、気を悪くされた風でもなく笑って「有難うございます」とお答えになった。
 なんだか主人公の北原と三崎さんとがちょっとダブッて見えてしまったのは申し訳ない想像であった。

 サインをいただけたのは嬉しいのだが、私の本名、やっぱり間違えられて書かれてしまった。三崎さん、「サイン会があると一人は必ず間違えるんですよ」と何度も謝られていたが、「いや、友達でも時々間違えてますから。気にしておりません」と私も頭を下げて、お互い謝り合戦である。
 これだから珍名の人間はつらい。こちらが腹立たしくなるのではなくて、相手に恐縮されてしまうのがつらいのである。


 サイン会の様子、もう少し見ていたかったのだが、劇団の集まりがもう始まっているので、そそくさと紀伊國屋をあとにする。
 千早駅で加藤君が迎えにくる予定だったのだが、到着してみると「すみません、歌の順番が回ってきたので迎えに行くのが遅れます」とのメール。つか、カラオケやってんのかよ。どこに集まるのか当日まで全く連絡がなかったのでどうしたもんかと思ってたが、カラオケじゃ打ち合わせも何もできないんじゃないか。まあ、一応劇団は休止期間であるから別に無理して打ち合わせしなくてもいいんだが。

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01月30日(日)
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