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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■第59回毎日映画コンクール発表/映画『スーパーサイズ・ミー』ほか
だいたい、どこの世界に「ファーストフードが健康に悪い」ことを証明するために、「マクドナルドハンバーガーだけを食って1ヶ月過ごす」なんて実験をするやつがいるか。もちろん、結果は分かりきっていて、監督は11キロ太って、病人になってしまうのである。
監督がそんなバカな実験をすることになったのは、ある裁判がきっかけである。ハンバーガーばっかり食べて太ってしまった女の子二人が、マクドナルドを訴えた。「私たちが太ったのはマクドナルドのせいです!」。もちろん、こんなバカな訴えは裁判長の「食い過ぎたアンタらが悪い」の一言で結審。けれど、マクドナルドが「太り過ぎと当社の食品との間に因果関係はない」と答弁で断定したことが、この裁判記録を見た監督のアタマにカチンと来た。訴え自体は難癖だったとしても、そんな「消費者の栄養問題なんか知りませんよ、私らはカネがもうかりゃいいんです」なんて態度はないじゃないか、という怒り。かくして、監督は自ら「スーパーサイズになろう」と、ファーストフード生活を始めたのである。……しかし驚いたのは、1ヶ月過ごすどころか、わずか五日で血糖値やら血圧やらが一気に正常値から異常値になっちゃうところだね。日本とアメリカとでは多分、バーガーのサイズも違うとは思うが、やっぱ、健康に悪いのは歴然としてるのである。
もう笑っていいやら悲しんでいいやらの展開になるのは、20日を過ぎたあたりから。監督が医者を訪ねてこう訴える。
「前は食べると気分が悪くなってたんですが、今は食べると気持ちいいんです」
「それは中毒です」
はい、“ハンバーガーでも食べ過ぎると中毒になる”んですよ。ファーストフードにばかり通ってる学生諸君、一日、二日、ハンバーガーを食べないでいると、気分が落ちつかない、なんてことになってませんか?
この映画の一番オバカなところは、「そんな実験せんでも、ファーストフードがからだに悪いことはわかっとる」、すなわち、人体実験のデータとしては貴重であるかもしれないが、一般人から見れば監督の所業はただの「無駄」でしかない点だ。しかし、こういった“どうでもいいこと”に熱中する人間の「美しさ」を賞揚できない人間は、実は人間の本質を知らないのである。実験が終わった時、監督の恋人も友達も声を一つにして言う。「彼はいいやつだがクレイジーだ」。そう、人間の本質は狂気なのだ。我々一般人は、理性やら常識やらといったものが邪魔をして、内なる狂気をどうしても発露できない。それをこの監督はまさに「カラダを張って」我々の代わりにやってくれたのである。どうして感謝の拍手を贈らずにいられるだろうか。
だから、この映画を見たからといって、明日からファーストフードに行くのを続けるか止めるか、悩む必要はない。タバコや酒と同じく、「する人はするし、しない人はしない」、それも初めから分かりきっていることだからだ。
第59回(04年)毎日映画コンクール各賞が発表。マニアの方にはいちいち説明するまでもないことだけれど、何十年も前からアニメーションをちゃんと映画作品として評価してきた殆ど唯一と言っていい賞がこれなんですね。
■日本映画大賞 『血と骨』
■日本映画優秀賞 『誰も知らない』
■監督賞 黒木和雄(『美しい夏キリシマ』/『父と暮せば』)
■男優主演賞 ビートたけし(『血と骨』)
■女優主演賞 深田恭子(『下妻物語』)
■田中絹代賞 淡路恵子
■脚本賞 荒井晴彦(『ヴァイブレータ』)
■男優助演賞 オダギリジョー(『血と骨』/『この世の外へ クラブ進駐軍』)
■女優助演賞 田畑智子(『隠し剣 鬼の爪』/『血と骨』)
■スポニチグランプリ新人賞 上野樹里(『チルソクの夏』/『スウィングガールズ』)土屋アンナ(『下妻物語』/『茶の味』)柳楽優弥(『誰も知らない』)
■外国映画ベストワン賞 『ミスティック・リバー』
■撮影賞 鈴木一博(『ヴァイブレータ』/『機関車先生』/『ガールフレンド』/『ココロとカラダ』)
■美術賞 桑島十和子(『下妻物語』)
■音楽賞 日野皓正(『透光の樹』)
■録音賞 弦巻裕(『誰も知らない』)
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01月18日(火)
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